相続
相続の基本手続き
1:相続人の調査
相続の手続きにおいて、まず始めに行わなければいけないのが「相続人の調査」です。
前のページでも述べた通り、「相続人は誰か」というのは民法で定められていますので、それにしたがって該当する人=法定相続人を特定しないことには、遺産の分割手続きが進まないのです。
そこで故人の“出生から亡くなるまでの戸籍”が必要になります。
「なぜ亡くなったときの戸籍だけではだめなの?」
相続人が誰かがはっきり把握ができる場合などはこう感じるかもしれませんが、死亡時の戸籍だけでは「法定相続人はこの人」という“証明”の材料としては足りないからです。
たとえば、財産の持ち主がいなくなったからといって、まったくの赤の他人が預貯金を簡単に引き出せたら困りますよね。金融機関としては、持ち主がいないからこそ、「この人にこの財産を引き出させてもいいのかどうか」を客観的に判断しなければいけません。
こうしたときに出生から死亡までの戸籍と相続人の現在の戸籍の提出などを求め、身元の確認を行うわけです。
家庭の事情は人それぞれ。故人に認知した子がいたり、また孫や甥っ子・姪っ子と養子縁組をしているという場合もありますので、相続人であることを第三者に証明するためには“出生から亡くなるまでの戸籍”をすべて揃える必要があるのです。
ポイント
ここで気をつけなければならないのが、すべての戸籍を揃えたうえで正しい法定相続人を確定させることです。もし相続人の見落としや間違いがあると、遺産分割の手続きはすべてイチからやり直しとなります。
ちなみに、司法書士などの専門家にまかせれば、基本的にはここでミスが起きることはあまりありません。
当事務所でのサービス
- 相続手続きに必要なすべての戸籍・住民票など公的書類の収集代行
- 相続人それぞれの関係性をわかりやすくまとめた図の作成
参考:「相続人の調査」が大変な理由
①音信不通の相続人
連絡が取れない相続人がいても、その人を除外して手続きを進めることはできません。どこに住んでいるかわからない、連絡先もわからないという場合、手続きよりも先にその人を探すところから始まります。さて、どうやって探しましょう? ちょっと想像するだけでも「これは面倒なことになりそうだ」と予想できますよね。
②戸籍の収集
被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍をすべて取り寄せる必要があります。戸籍は結婚、離婚、養子縁組、転籍、法律の改正などがある度に新しいものが作られます。ですから、一人一枚、のような単純なものではありません。さらに、市や県をまたいで戸籍がある場合は郵送で取り寄せます。もちろん、重要な書類ですから、電話1本で送ってもらう、ということができません。「郵送用の申請書」「手数料となる小為替」「相続人の身分証や戸籍(相続人であることを証明するため)」これらを用意し、まずこちらから送らなければいけません。1ヶ所の役所で集まればまだいいのですが、そうでない場合は、各役所に請求するのでとても手間がかかります。
③戸籍を読み解く
戸籍をあまり見る機会がない方は、なんとなく“住民票”のようなイメージをお持ちではないですか? しかし、残念なことに、最近の住民票のような読み取りやすい書類ではありません。過去にさかのぼると、戸籍は縦書きで役所の職員などが手書きで記入しており、草書体のような文字で書かれていたり、文字がつぶれて判別が難しいものも多数存在します。電子化された文字が当たり前になっている現代人には、読むだけでも一苦労。こうした慣れないフォーマットの書類を、見落としなく読み解かなければいけないというのは非常にストレスの多い作業です。
2:遺産の調査
さて次に、故人がどんな財産をどのくらい持っていたかを「遺産の調査」を行い、相続財産を確定させます。
故人が生きている間に一生懸命築いた財産ですから、遺された相続人はしっかり引き継がなければなりません。そして、その財産がある程度大きい場合は、相続税を納める必要もでてきます。期限までに申告をしないと延滞税や無申告加算税などが課される可能性があるため、速やかに調査を行います。
まずは
- 土地や建物
- 預貯金
- 株、公社債、金融商品など
これらの、経済的な価値が大きいが”モノ“として発見しにくい財産の有無、評価額を計算します。大きい財産ほど、あとで発見されると分割協議や税金の申告がやり直しが必要となりますので、丁寧に調べます。
「預貯金は通帳を見ればすぐに調べられそう」
こんなイメージがありますが、最近ではネットバンキングを利用されている方も多く、通帳が手元にないため見落としてしまうということもありますので注意が必要です。
ポイント
遺産の調査の段階で、「家族が知らない借金があった」「払っていない税金があった」など、少しショッキングな負の遺産を発見するケースもあります。
事前にわかっていた債務も含め、相続ではこれらの債務契約も相続人に引き継がれることになりますが、場合によっては相続をしないという手続きを行う方法もあります。
当事務所でのサービス
- 残高証明書の取得
- 固定資産評価証明書取得
- 財産目録の作成
3:遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書とは、その名の通り遺産の分割協議の結果について記載した書類です。言葉だけを聞くと、なんとなく「相続人同士が後々揉めないようにするための書類」と思われがちなのですが、実はそれ以外にも大切な役割があります。
民法では「相続人が誰か」「相続財産とは何か」だけでなく、「遺産をどのように分けるか」についても目安が定められています。
ただし、実際には民法にしたがって分けることが難しかったり、そうすることで余計に軋轢を生んでしまうようなケースも多々あります。これでは本末転倒ですよね。そのため、遺産の分け方については必ず民法にしたがわなければならないというものではありません。要するに、穏便に解決できるなら、自分たちが納得できるように分割することを優先すればいいということです。
しかし、そうなった場合に困るのが、各手続きを行う第三者です。
不動産の新しい名義が謎の人物・・・、預貯金の引き出しに遠い親戚・・・こうなると、法務局や金融機関はまたもや「この手続きを進めていいものかどうか」という判断ができなくなってしまいます。
そこで、すべての相続人が納得した分割であることを証明するために、遺産分割協議書が必要になるのです。
ですから
- 法定相続分とは異なる相続登記を行いたい
- 法定相続分とは異なる預貯金の払い戻しを受けたい
- 法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行い、相続税の申告をしたい
このような場合に遺産分割協議書が役に立ちます。
ポイント
後に相続人同士で争いになったときには、遺産分割協議書の法的な効力が必要とされます。
ですから、一部の相続人を除いて作成したり、財産を見落としたまま作るのがNGであるのはもちろん、必要な項目に漏れがないように作成し、状況によっては公正証書にすることも検討します。
当事務所でのサービス
- 分割協議の話し合いのサポート
- 遺産分割協議書の作成
- 各相続人の署名・押印、書類などの取り交わし
分割方法が決まったら
遺産分割協議書が作成できたら、その協議の結果にしたがい、各窓口にてそれぞれの手続きを行うことになります。
相続の内容によって必要な手続きが変わってきますので、一つずつご紹介いたします。
不動産の相続登記
故人の所有となっていた不動産の名義変更を行います。この手続きにはとくに期限がありません。それゆえごく稀に、亡くなった方の前の所有者の名義となっているケースもあります。
このような場合、たとえば通常は故人の子ども2人で分割協議を行えばよかったはずなのに、名義が故人の親だったために相続手続きに故人の兄弟も加えなければならない、など一気に手続きが煩雑になります。つまり、不動産の相続登記に期限はないが、放っておけばおくだけ相続人が増えて、手続きがややこしくなる可能性が高いということです。
ですから、分割協議が終わった段階で速やかに相続登記を行うのが望ましいと言えますね。
当事務所でのサービス
- 登記事項証明書の取得
- 固定資産税評価証明書を取得
- 登録免許税の算出
- 戸籍謄本や印鑑証明などの書類の用意、提出
預貯金口座の手続き
ご存知の方も多いと思いますが、口座の名義人が亡くなったと金融機関が確認した時点でその口座は凍結されます。これは、正式な相続人以外の人が勝手に預貯金を引き出して相続財産が把握できなくなってしまうのを防ぐため。遺産分割協議が終われば、その内容にしたがって預貯金の名義変更や現金の分割などが行えるようになります。
ちなみに、凍結されてしまった口座を再び動かすにあたっては遺産分割協議が終わっているに越したことはないのですが、実際には葬儀費用を支払う現金が手元になく遺産から出したいと考える場合もありますよね。そんなときでも、きちんと所定の手続きを踏めば葬儀費用については引き出しに応じてくれる金融機関もあります。ただし、この場合でも一定の故人の戸籍や相続人の戸籍が必要となるため、速やかに手配できる専門家が活躍します。
当事務所でのサービス
- 口座がある各金融機関への照会
- 金融機関ごとに異なる必要書類の作成、用意、提出
- 預貯金等の名義変更、解約手続き
- 預貯金の分割
株式(株券)の名義変更
相続にあたっては株式の名義変更も必要です。株式も不動産と同様、簡単に分けられる財産ではないため、相続が発生した時点ではいったん全ての相続人が「共有」している状態になります。つまり、遺産分割協議が終わらなければ名義変更の手続きができないのです。
上場株式の評価額は把握することができますが、非上場株式の価値は算出が複雑なので、専門家の助けが必要になります。
当事務所でのサービス
- 株式名義書換請求書の作成
- 新しい株主の株主表
- 戸籍謄本や印鑑証明などの書類の用意、提出
生命保険、その他年金などに必要な手続き
故人が生命保険の加入者(被保険者)だった場合、保険金の支払請求の手続きを行う必要があります。死亡保険金は2年以内(保険会社によっては3年以内)に手続きをしないと保険金を受け取る権利がなくなるので要注意。
なお、生命保険の死亡保険金は、故人が受取人になっていなければ相続財産にはなりません。
また、年金に関しては、故人が受給していた場合には停止の手続きを行い、場合によっては遺族年金や寡婦年金が受給できる場合があります。
当事務所でのサービス
- 保険金請求書作成(保険会社の書類)
- 各保険会社ごとに異なる必要書類の用意、提出
相続税の申告
相続財産が一定額以上の場合、相続税が課されます。そして、この申告期限は、相続が発生したことを知った日から10ヶ月以内と定められています。故人が亡くなってバタバタしているとあっという間に期限がやってくるので、少し注意が必要です。
また、不動産は土地の形状や建物の状況などによって評価額が変わるため、計算が複雑です。そういう事情も踏まえたうえで、相続財産に不動産があって相続税の発生が予想される場合は税理士などの専門家の力を借りるのが得策です。
当事務所でのサービス
- 相続税の申告に必要な書類(最低でも11種類)の準備サポート
- 相続税の計算(提携税理士による)
- 税務署への書類提出(提携税理士による)
相続をしない方法
相続放棄
故人が多額の借金を遺している場合、相続人がその負債を引き継がなくてもいいように、相続放棄という権利が与えられています。ただし、この手続きでは「最初から相続人ではなかった」とみなされるため、マイナスだけではなくプラスの財産も放棄することになります。ですから、相続財産全体を把握したうえで、マイナスが大きい場合にはこの手続きがおすすめです。
ただし、すでに相続財産に着手してしまっていたり(たとえば不動産の登記が終わっていたり)、相続を知った日から3ヶ月以上過ぎてしまっている場合は相続したとみなされ(単純承認)、この手続きは行なえません。
当事務所でのサービス
- 相続放棄申述書作成
- 家庭裁判所に提出が必要な書類の作成、用意
- 相続放棄受理の証明書取得
限定承認
全て相続するか全て放棄するかの二択以外に、プラスの財産の範囲内で負債について支払い義務を負うという方法もあります。これが限定承認です。たとえば、故人に借金があるが、不動産もあり、それを簡単には手放せないという場合などに有効です。
限定承認は、白か黒かの手続きではなく法的に複雑な部分も多いので、法律に詳しくないとなかなか進めるのが難しい手続きです。
当事務所でのサービス
- 限定承認申述書作成
- 家庭裁判所に提出が必要な書類の作成、用意
- 限定承認受理の証明書取得
その他の手続き
不在者財産管理人選任の申立て
連絡がつかない相続人がいると、遺産分割協議を進めることができません。
どうしてもこの相続人が見つからない(生存している可能性が高い)場合は、この不在者の代わりをする代理人を裁判所に選んでもらい、この代理人=不在者財産管理人と協議をすることが認められています。そのための手続きとして、不在者財産管理人選任の申立てという手続きがあり、司法書士はこうした書類の作成も行います。
相続財産管理人選任の申立て
故人に身寄りがなく、相続人がいないことが明らかな場合でも、その方の財産を放っておくわけにはいきません。では誰がそれを引き継ぐかというと、結論としては、生前に縁の深かった人物や国が受け取ることになります。
そのためには、まず故人の相続財産を管理する代理人を裁判所に選んでもらわなければなりません。
この代理人=相続財産管理人を選任する申立ての手続きも司法書士が行っております。