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【なんで??】成年後見人なのに本人の代わりに契約ができない??

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成年後見人なのに本人の代わりに契約ができない??
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成年後見制度を利用すると「成年後見人」が本人に代わって日常における「さまざま行為」を代理することができます。

  • 預金を引き出す
  • 介護サービスを申し込む
  • 不動産を売る
  • アパートを解約する
  • 老人ホームに申し込む
  • 要介護申請をする

など

「(良し悪しの判断ができなくなってしまった)本人」の利益を守るために、成年後見人があらゆる行為について代理できるような制度設計になっています。

 

ひらたく言ってしまうと、「本人に代わって成年後見人が契約書にサインができる仕組み」が成年後見制度です。詳しく知りたい方は『【初心者向け】成年後見制度が3分でわかる!成年後見人でもある司法書士がわかりやすく徹底解説!』でご紹介しております。

 

しかし例外として一定の行為については、成年後見人が本人を代理できないケースも存在します。

 

「え、そうなの!!」

 

そこで、今回は「成年後見人が代理できないケース」と「その時の解決策」についてご紹介したいと思います。

 

1 成年後見人が代理できないケースとは?

指示棒で教えている人

先に結論を言ってしまうと「本人と成年後見人の利益がぶつかる行為」については、成年後見人であっても本人を代理することができません。この行為を「利益相反行為」といいます。

 

わかりやすいように例を出しますね。たとえば、本人が持っているテレビを成年後見人が買うとしましょう。

 

このテレビの値段が上がれば本人は嬉しいですし、下がれば悲しくなります。

 

次は、買主である後見人の立場から考えてみましょう。後見人にしてみると、テレビの値段が下がれば得をし、上がれば損をします。まとめると、

【値段が上がる】

  • 本 人 : 
  • 後見人 : 

【値段が下がる】

  • 本 人 : 
  • 後見人 : 

 

このように当事者の一方が「得」をすると、他方は「損」をする関係が利益がぶつかる行為です。そして利益相反行為です。

 

2 その場合、なぜ成年後見人は代理できないのか?

これは、何となく想像ができますよね。成年後見人が自分の利益を優先し、本人の利益を犠牲にする可能性があるためです。

 

先ほどの「テレビの売買」を例にとって考えてみましょう。本人と成年後見人との間の売買において、成年後見人の代理権を認めると、「成年後見人がひとり」で「テレビの値段」を決めることができてしまいます。

 

成年後見人が値段を1円と決めれば、それで売買契約は成立です。これでは本人の利益を守れませんよね。

 

「そんなことするわけがない!」

 

ごもっともな意見です。でも、もしかしたらする人がいるかもしれません。値段を1円にすることは、あからさますぎてさすがにいないでしょうが、本来であれば五万円の価値がある物を45000円くらいに設定する人は、いてもおかしくないでしょう。

 

成年後見人は、本人のために最善を尽くす存在です。本人が売主になるのであれば1円でも高く売る努力が求められます。それができない環境を成年後見制度として認めるべきではありません。

 

以上のことから、本人と成年後見人の利益がぶつかる行為(利益相反行為)については、成年後見人の代理権を認めることはできないのです。

 

「それは(利益相反行為は)売買だけ?」

 

いえ違います。中には、一見しただけでは利益相反行為とわからない行為もあります。利益相反行為と知らずに代理行為をした結果、本人に損害が発生すれば多額の賠償金を支払うはめになるかもしれません。

そこで、次は利益相反行為の代表例をいくつかご紹介したいと思います。

 

3 利益相反行為の具体例

説明している人

成年後見人が本人をサポートするうえで、出会う可能性が高い3つの事例をご紹介しましょう。

  • 不動産の担保設定
  • 相続放棄
  • 遺産分割協議

 

不動産の担保設定

【登場人物】

  • 父  : 認知症・被後見人
  • 長男 : 成年後見人

 

現在、長男は父の成年後見人になっていますが、父がそうなる前(認知症になる前)に、父所有の土地の上に住宅ローンを組んで念願のマイホームを長男は建築しました(このマイホームには長男とその妻が住んでおり、父は住んでいません)。

 

土地は父の好意でタダで借りています。父としても長男が自宅の近くに住んでくれて喜んでいました。

 

それから5年が経ち、長男の借りた住宅ローンよりも金利が安い商品(住宅ローン)が目立ちだしています。長男は、金利の安い住宅ローンに乗り換えることを決意しました。

 

新しい住宅ローンについても、もちろん土地と建物(マイホーム)を担保に入れる必要があります。

このような、長男の住宅ローンのために父所有の土地を担保に入れることは「利益相反行為」と認定され、長男(成年後見人)は父(本人)を代理することはできません。

 

ここでのポイントは、(先ほどの売買と違い)長男と父は直接、取引をしていません。売買契約の当事者と比較してみましょう。

 

【売買契約の当事者】

  • 売主 : 本人(または成年後見人)
  • 買主 : 成年後見人(または本人)

 

【担保契約の当事者】

  • 設定者  : 本人
  • 担保権者 : 銀行

 

これからもわかるとおり担保契約は「本人」と「成年後見人」が取引をするわけではありません。(売買と違い)成年後見人がひとり契約の内容を決められるわけではありません。それでも、長男(成年後見人)に代理権を認めることはできないのです。それはなぜでしょう。

 

この理由もかんたんで、成年後見人が自分の利益を図るために本人の利益を犠牲にする可能性があるためです。

ワンポイント

【売買契約】

  • 成年後見人がひとりで値段を決めることができる。よって契約の内容次第では本人の不利益になる。だから、代理を認めるべきではない。

【担保契約】

  • 本人と銀行の契約なので、成年後見人の考えで契約内容を決めることができない。しかし、成年後見人の住宅ローンのために本人の土地を担保に入れる行為は、「条件が良かろうが悪かろう」が本人の不利益になる。だから、代理を認めるべきではない。

 

相続放棄

【登場人物】

  • 亡父
  • 母  : 認知症、被後見人・父の相続人
  • 長男 : 母の成年後見人・父の相続人

 

母は認知症で正しい判断ができないため、長男が母の成年後見人として日常生活をサポートをしています。

 

そんな中、父が亡くなり相続人は「母」と「長男」のふたりだけです。長男はふたりで平等に分けることも考えましたが、

 

「どちらにしても、どうせ自分が管理することになるんだから自分ひとりで相続しよう」

 

と考え、母の成年後見人として(母の)相続放棄をすることにしました。

この相続放棄も「利益相反行為」になります。したがって、長男は母を代理して相続放棄をすることはできません。相続放棄とは、これまでの売買や担保設定と違い「相手」がいません。相続放棄は「ひとり」で行う手続きです。ですが、売買や担保契約のケースと同じように利益相反行為とみなされています。相続放棄を詳しく知りたい方は『疑似体験で相続放棄がわかる!期限や無効にならないポイントも徹底解説!』でご紹介しております。

 

なぜ利益相反行為になるかというと、ある相続人が相続放棄をすると他の相続人の取り分が増えるためです。

 

本ケースで「相続放棄をした場合」と「相続放棄をしない場合」の「取り分」を見てみましょう。

【相続放棄をしない場合】

  • 母  : 2分の1
  • 長男 : 2分の1

 

【相続放棄をした場合】

  • 母  : 0(ゼロ)
  • 長男 : 全部

 

このように母が相続放棄をすると、成年後見人である長男の取り分が増えます。相続放棄も売買と同じように成年後見人が自分の利益を優先して、本人の利益を犠牲にする可能性があることがわかるでしょう。

ワンポイント

本ケースにおいて、「長男」も母の相続放棄と「同時に」または「先立って」相続放棄をした場合は「利益相反行為」にならずに長男が母を代理できます。

遺産分割協議

【登場人物】

  • 亡父
  • 母  : 認知症、被後見人・父の相続人
  • 長男 : 母の成年後見人・父の相続人。

 

家族関係は先ほどと同じです。今度は、どちらも相続放棄はせずに相続をすることにしました。

 

父の遺産は、自宅と預金500万円です。長男は、その遺産の大半を母に相続させる遺産分割をすることにします。

【遺産分割の内容】

  • 母  : 自宅 と 預金400万円
  • 長男 : 預金100万円

 

この分割内容なら、母はほとんどの遺産を相続することができ損は一切していません。

このような遺産分割の内容でも「利益相反行為」になりますので、長男が母を代理することはできません。遺産分割協議は、母の取り分が減ると長男の取り分が増え、母の取り分が増えると長男の取り分が減るという「利益の衝突」の関係にあります。

 

このような関係にある場合は、実際に不利益を受けるかどうかは考慮されずに一律に長男に代理権は認めることはできないのです。

 

4 解決策|どうすればいいのか?

これは後見監督人がいるかどうかで変わってきます。

後見監督人がいる場合

後見監督人がいる場合は、その監督人が本人を代理して、その行為(利益相反行為)を行います。

 

後見監督人がいない場合

成年後見人と本人の利益が対立する行為に関しては、成年後見人が本人を代理することができないので、その行為についてだけ「代理する人」を選び、その代理人に行ってもらいます。この代理人を「特別代理人」といいます。

※ 保佐や補助の場合には、臨時保佐人や臨時補助人を選ぶことになります。

 

特別代理人の選任

【申立人】

  • 成年後見人
  • 親族その他利害関係人 ※1

※1 親族その他の利害関係人が申立人になれるという条文はありませんが、学説上、申立人になれると考えるのが多数説です。裁判所によって取り扱いが異なるので、事前に問い合わせることをオススメします。

【申立先】

  • 後見開始の審判をした家庭裁判所

【手数料】

  • 収入印紙 800円
  • 郵便切手(管轄裁判所へご確認ください)

【必要書類】

  • 申立書
  • 特別代理人候補者の住民票

(遺産分割を目的とする場合)

  • 遺産分割協議書(案)
  • 本人の法定相続分が確保されていることがわかる書面

(担保を設定する場合)

  • 担保権設定契約書 (案)
  • 金銭消費貸借契約書 (案) または保証委託契約書 (案)

(売買を目的とする場合)

  • 売買契約書(案)

5 成年後見人が利益相反行為をしてしまったらどうなる?

成年後見人と本人の利益が対立している行為(利益相反行為)については、成年後見人に代理権を認めることができません。

 

つまりは何の権限もないのに、他人の代理人と詐称して代理行為を行った場合と同じです。成年後見人に代理権がないので、本人に対しては何の効果もありません。

 

無効なので本人に効果はありませんが、相手はそれを知らずに取引をしてしまっているので、元通りに戻せるかはわかりません。それによって本人に損害が生じていれば、当然、成年後見人に損害賠償責任が生じます。

 

実際には、本人が賠償請求をすることができませんので、後見監督人がいればその監督人が本人を代理して成年後見人に対して損害賠償を請求することになります。もしも監督がいなければ、新しい成年後見人を選び、その新後見人から元成年後見人に対し損害賠償請求をすることになるでしょう。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

 

成年後見人は、本人の利益を守るためにさまざまな行為について代理権が認められています。

 

しかし、成年後見人に代理権を認めることによって、逆に本人の利益を損なう可能性がある「利益相反行為」については、成年後見人に代理権を認めない取り扱いになっております。

 

もしも、それに違反して本人に不利益を与えてしまうと損害賠償を受ける危険もあります。成年後見人として本人をサポートする以上は、最低限のルールは覚えておきましょう。

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