【成年後見と家族信託の比較】制度の違いやそれぞれの特徴を比べてみた!
『認知症対策がしたい!』
こう考え、ネットや本で調べていくと「成年後見制度」と「家族信託」に行きつく方が多いのではないでしょうか。どちらも認知症対策としての効果があります。使い方次第で、あなたの強い力になってくれることでしょう。
「でも、どっちを使えばいいの?」
いくつかの制度があると、自分にとってどれがベストの選択なのか悩むこともありますよね。
「何が違うんだろう」
「それぞれ、どんな特徴があるのだろう」
そこで今回は、このような声に応えるために成年後見制度と家族信託の「違い」や「特徴」について解説していきたいと思います。
「家族信託ってなんだろう」という方は、先に『【はじめての方でもわかる】認知症対策としても効果抜群の家族信託をわかりやすく解説!』をお読みいただくと理解が深まります。
1 成年後見と家族信託を比較してみよう
高齢者をサポートするうえで欠かすことができない支援が、
- 財産管理
- 身上保護
です。詳しい説明は省略させていただきますが、こちらを詳しく知りたい方は『これを読むだけで成年後見人の役割や仕事が9割わかる!』も合わせてお読みください。
かんたんにご紹介すると、
財産管理とは
- 預貯金を引き出したり、預けたりする
- 年金や給料などの収入を管理する
- 保険料や税金の支払い
- 自宅の日々のメンテナンスや通帳、印鑑などの貴重品の管理
身上保護とは
- 有料老人ホームや特別養護老人ホームの入所に関する契約やその支払い
- 治療、入院、リハビリ支援などの契約やその支払い
- 要介護認定の申請や介護サービスの選定やその支払い
- 本人の身体の安全の確保
などを行うことです。
高齢者の支援に必要なこの2つの要素に着目して「成年後見制度」と「家族信託」の特徴や違いについて比較してみたいと思います。
【財産管理(1)|管理できる財産の範囲】
「成年後見制度」
本人が持っているすべての財産に及びます。
- 現金
- 預貯金
- 不動産
- 車
- 通帳
- 印鑑
- 貴金属
など、包括的に成年後見人が管理することになります。
「家族信託」
当事者で話し合って設定した「(信託)財産」にだけ管理権限が及びます。
たとえば本人が、
- 現金
- 預貯金
- 自宅
- アパート
- 株
- 車
を持っていて、この中から「現金」と「アパート」を選んで信託をしたとします。そうすると受託者が管理できる財産は「現金」と「アパート」だけです。他の財産については何の権限もありません。
「管理できる財産の範囲|まとめ」
- 成年後見 : 包括的
- 家族信託 : 限定的
【財産管理(2)|どのような管理ができるのか?】
「成年後見制度」
成年後見制度は、本人が安心した生活が送れるようにサポートするしくみです。本人の財産を守るためのもので、本人の財産を積極的に増やすためのものではありません。
ですので、財産を増やす目的で本人の財産を運用することは認められません。
そして同制度は本人の利益を守るためのものなので、家族の利益のために本人の財産を使うことはできません。
「家族信託」
家族信託における財産の管理は、契約に定められているかぎり自由にすることができます。
積極的な資産運用も可能です。
「どのような管理ができるのか?|まとめ」
- 成年後見 : 現状維持
- 家族信託 : 自由(契約次第)
【身上保護】
「成年後見」
老人ホームとの入所に関する契約や市役所や年金事務所への申請などの身上保護に関する支援は、成年後見人の重要な役割なのでもちろんすることができます。
これができなければ、本人が安心して生活を送ることができません。
ですので、成年後見制度においては身上保護もすることができます。
「家族信託」
家族信託においては身上保護のサポートをすることはできません。
家族信託は信託した財産を一定の目的にしたがって管理する手法なので、その信託財産から離れて市役所や年金事務所での手続きはできないのです。
「身上保護|まとめ」
- 成年後見 : 身上保護もできる
- 家族信託 : 身上保護はできない
【おまけ|法的な性質】
「成年後見」
成年後見制度は、本人に代わって財産を管理します。つまりは本人の代理人としてサポートを行います。
成年後見人のサポートは、本人を代理しているだけです。
「家族信託」
家族信託は、信託財産を受託者へ移転させて、形式上は財産の名義は本人ではなくなります。
受託者のサポートは、形式上、財産の名義を取得して行います。
「法的な性質|まとめ」
- 成年後見 : 代理
- 家族信託 : 譲渡
では次に、具体的な事例に当てはめて「成年後見制度」と「家族信託」を比べてみましょう。
2 事例検討|パート1
【事例1】
家族関係 : 父 と 息子
父は自宅のほかに、そこから1㎞ほど離れた場所に「A土地」を持っています。
息子は現在、実家を離れて妻と二人で暮らしていますが、子供ができたらそのA土地に住宅ローンを組んで家を建てる予定です。もちろん土地は無償で借ります。
父としても「家を建てること」や「その土地を住宅ローンの担保に入れること」を了承してくれています。むしろ息子や孫が近くに引っ越してくることを楽しみにしています。
それから2年後、息子に子供ができましたが、父が認知症になってしまい判断能力はありません。
成年後見制度
息子が家を建て、その土地について住宅ローンを設定するためには、成年後見人をつけるしかありません。
しかし、成年後見制度は本人の利益を守るための制度であって、家族の利益のための行動をとることができません。
この2つの行為は本人(父)にとって不利益になる行為として認められない可能性が高いでしょう。
家族信託
家族信託においては、「信託財産をどう使うのか」は当事者で自由に決めることができます。
父が認知症になる前に家族信託の契約をしておけば、父の土地に息子の家を建てたり、その土地を息子の住宅ローンの担保に入れることも可能です。
結論
この事例では「家族信託」に軍配が上がります。
3 事例検討|パート2
【事例2】
家族関係 : 父 と 息子
父は最近、物忘れが多くなり「病院に行くこと」や「食後に薬を飲むこと」を忘れることが頻繁にあります。洗い物も忘れてしまうのか、そもそもできない性格なのか、食器や洗濯ものが散乱しています。
ある日、父から息子へ電話がかかってきました。
「キャッシュカードの暗証番号は何だったかな?」
キャッシュカードの暗証番号が思い出せずにATMからお金を引き出せないようです。当然、暗証番号は息子も知りません。
父の症状を見ている限り、誰かに財産の管理や介護サービスの選定やその依頼を任せる必要がありそうです。
成年後見制度
成年後見人は、本人がこれまでと同じように平穏な生活を送るためのサポートすることが使命なので、預「貯金の管理」や「介護サービスの依頼」をサポートすることができます。
場合によっては、施設へ入所することも検討することになるでしょう。
成年後見人は、医療や介護サービスの減額を受けるために役所への申請をすることもできます。
このようなケースではまさに打ってつけの制度が成年後見でしょう。
家族信託
家族信託において「お金」を信託すれば、金銭の管理は問題なくできます。
ですが本事例において父は、病院に行くことや服薬を忘れてしまっています。生活環境の衛生面にも問題があります。
そうすると、財産管理だけでは足りず、身上保護の要素が重要になってきます。残念ながら家族信託においては身上保護のサポートをすることができません。家族信託のしくみだけでは父のサポートとして不十分と言わざるを得ないでしょう。
結論
本事例においては「成年後見制度」に軍配が上がりました。
まとめ
成年後見と家族信託のどちらを選択するかはケースに応じて、個別に考えていくしかありません。事例検討をしてわかったとおり、一概にどちらが優れているということはありません。
どちらも一長一短があります。
「成年後見」と「家族信託」のしくみは、どちらかを使えば他方が使えないというものではありません。
事案に応じてどちらかを使ったり、場合によっては2つの制度を組み合わせて使っていきましょう。