【失敗体験談4】成年後見人は申立人の希望どおりに選ばれるとは限らない!
今回ご紹介する失敗談は、申立人の希望どおりに成年後見人が選ばれなかったという事例です。
この事例を通して、成年後見制度の目的を再確認してもらいたいと思います。「なぜ申立人が推薦した候補者が成年後見人に選ばれるとは限らないのか」「その判断に異議を申し立てることができるのか」といった面に着目しながら自分なりの考えを持って読んでいただけると、さらに成年後見制度の理解が深まります。
では早速いきましょう。
1 成年後見人は申立人の希望どおりに選ばれるとは限らない
A ・・・認知症
妻 ・・・Aの奥さん
娘 ・・・Aの長女
妹 ・・・Aの妹
A(73歳・男性)に、8歳年の離れた妹から連絡が入りました。
『父の遺産である不動産を売って、その売却代金をふたりで分けることにしよう』
「A」はふたり兄妹で、父の遺した自宅に妻とひとり娘と3人で暮らしています。Aは昨年から認知症になり、妻と娘のサポートがなければ生活できない状態です。
Aの父は三年前に亡くなりました。主な遺産は次のとおりです。
- 自宅(現在、A家族が住んでいる)
- 預貯金
- 株
葬儀を終えAと妹は、次のように遺産を分けることに合意しました。
- 自宅 → A
- それ以外 → 妹
自宅の価格が約3000万円、それ以外の遺産の総額は500万円ほどでした。この価格の差については妹も納得し、話し合いは終わりました。
「それが今になって、なぜ」
Aの「妻」と「娘」は、その提案を受け入れることはできません。
1.1 相続登記を先延ばしにしていたことが仇(あだ)に!
自宅の名義は「亡くなった父」のままにしていました。落ち着いたら名義変更をしようと先延ばしにしていたのです。
そして、名義変更をする前にAは認知症になってしまい、それどころでなくなってしまいました。提案を飲むことはできないAの娘と妻は、「Aの妹」と再び話し合うことに。
「自宅は父が相続することで決着はついている」
感情的になり、娘は妹に強い口調で言葉をぶつけます。
- 『自宅以外の遺産については話し合いがついたが自宅については何も決まっていない』
- 『仮に、そんな話し合いがあったとしても相続する価格に差がありすぎて認められるはずはない』
と妹も一歩もゆずりません。
1.2 遺産分割の調停をするために成年後見の申し立てへ
話し合いは平行線をたどり、何も進展は見られませんでした。困った妻と娘は、弁護士に相談することにしました。
その結果、Aについて成年後見の申し立てをし、遺産分割の調停をすることなりました。娘を後見人候補者とする後見申し立てを裁判所に提出し、結果を待ちます。
1か月後、後見開始の審判が出ました。
「・・・・・」
成年後見人を確認すると「娘」ではなく全く知らない弁護士が選ばれています。娘は後見人になれませんでした。
「なぜ!!」
自分が成年後見人に選ばれないのであれば、成年後見の申し立てをしたくない娘は、手続きの取り下げを裁判所へ願い出ます。
『成年後見人に自分が選ばれなかったことを理由に、成年後見の手続きを取りやめることはできません』
裁判所に中止を認めてもらうことはできませんでした。
2 アドバイス
成年後見制度は、判断能力がなくなってしまった人を支援するしくみです。
何かしらの障害を持っている人たちも、障害を持っていない人と同じような普通の生活ができる環境を整備しようという考え方から成年後見制度が生まれました。
これはその家族だけの問題ではなく社会全体の課題です。そのため一度、成年後見の申し立てがされると、その申立人となった家族が個人的な理由で「申し立てをやめたい」といっても認めることができないのです。
3 まとめ
いかがでしたでしょうか。
成年後見の申し立てにも不服申し立てはできますが、後見人候補者が成年後見人に選ばれなかったことを理由とする不服申し立てはできません。
「本人の財産が多い」とか、「本人が争いに巻き込まれている」といったことがない限り、後見人候補者がそのまま成年後見人に選ばれる可能性が高いと思いますが、「そうとは限らないこと」と「それについて異議は言えないこと」は忘れないようにしましょう。