【失敗体験談3】成年後見制度はときに本人の考えとは裏腹の結果に!
成年後見人は、「本人の考え」を取り入れながら、または「本人ならばこのような行動を望むだろう」と推測ながらサポートをしていきます。
しかし、ケースによっては本人ならば「このように考えるだろう」という行動をとることができない場面に遭遇することがあります。
- 「何を言っているの」
- 「矛盾しているじゃん」
今回は、このような矛盾を含んでいるケースに遭遇してしまった後悔体験についてご紹介したいと思います。
この体験談は【失敗体験談1】と似ていますが、問題点がまったく違います。その違いについて着目しながら読むと成年後見制度の理解が深まります。
1 成年後見制度はときに本人の考えとは裏腹の結果に!
A ・・・この話の主人公 ← 夫の相続人
夫 ・・・Aの旦那さん ← 被相続人
夫の弟 ・・・被後見人になる人 ← 夫の相続人
X ・・・夫の甥(夫の弟の息子)
『(妻なのに)夫の遺産をすべて相続することができないなんて・・・』
昨年、金婚式を迎えたA(74歳・女性)さんの「夫」が半年前に息を引き取りました。ふたりの間に子供いません。
相続人は「夫の弟」と「A」のふたり。
遺産は、
- 自宅 : 金2600万円(評価額)
- 預貯金 : 金600万円
です。
相続人である弟は3年前から認知症になり、身の回りの世話は同居している長男(夫の甥。以下、甥Xという)夫婦がサポートしています。
Aとの関係も良好で「甥X」は、いつも子供がいないA夫婦のことを気にかけてくれいました。
時間がある時は、Aの自宅に顔を出し世間話に花を咲かせ、時間が合えば病院までの送り迎えもしてくれます。
1.1 遺産分割(夫の遺産について)
Aは甥Xと話し合い、すべての遺産をAが単独で相続するに決めました。本来の相続人である夫の弟は、認知症で自ら遺産分割をすることができません。
「父(夫の弟のこと)が生きていれば、Aにすべての遺産を相続させるはずだ」
甥Xは、Aに伝えます。
遺産分割の内容がまとまった甥XとAのふたりは夫の相続の手続きをするために、以前、自宅を買ったときにお世話になった司法書士の事務所へ相談に行きました。
これまでの経過と(義理の)弟の症状を司法書士に伝え、司法書士から必要な手続きとその流れについて説明を受けました。
「まずは、弟さんについて成年後見の申し立てをする必要があります」
司法書士は、続けて相続の見通しについて話しをしてくれました。
「すべての財産をAが相続するは難しいかもしれません」
【ポイント】
成年後見制度は本人の利益を守るものです。今回のケースに当てはめると「夫の弟」の利益を守ることが制度の目的になります。
仮にAが単独で相続すると考えると、本来もらえるはずの法定相続分に相当する遺産を「夫の弟」は無条件で手放す結果になります。
これは、成年後見制度の目的からハズれてしまっています。したがって、法定相続分に相当する取り分を、「夫の弟」に相続させる遺産分割でないと家庭裁判所は許可を出してくれないでしょう。
法定相続分を詳しく知りたい方は『相続の順位で失敗する人に共通する特徴!相続の順番と法定相続分も徹底解説』をお読みください。
司法書士からその理由を聞き、内容は理解できましたが、素直に受け入れることができない「甥X」と「A」。
だからといって、相続の手続きをしないという選択肢はありません。Aと甥Xは、すぐに成年後見の手続きに取りかかりました。
成年後見の申し立ての依頼を受けた司法書士は、「甥X」を成年後見人候補者とする後見の申し立てを裁判所に提出し、程なくして無事に受理されました。
1.2 遺産分割についての家庭裁判所の判断
Aと甥Xは、Aに遺産のすべてを相続させるとの内容の遺産分割協議案を家庭裁判所に提出し、裁判所の判断を待ちます。
家庭裁判所の回答は、恐れていた結果に、、、
- 「(夫の)弟にも相続する権利がある」
- 「その弟の取り分がまったくない遺産分割協議を認めるわけにはいかない」
- 「法定相続分の4分の1に近い財産は確保するように」
裁判所から遺産分割の修正の指示がくだりました。
「父(夫の弟)が元気であれば、Aがすべての財産を相続することに快く協力してくれるはずなのに・・・」
甥Xは、コタツの反対側に座っているAにも届かないような小さな声でボソッとつぶやきました。
「(妻なのに)夫の遺産をすべて相続することができないなんて・・・」
Aは、心の中でこの言葉をかみしめます。
最終的に預貯金を弟に相続させ、自宅をAが相続することで落ち着きました。遺産である預貯金は、今後の生活費にあてることを考えていたAは、がっくりと肩を下ろします。
2 アドバイス
成年後見制度は、本人の利益を守るためのものです。
本人の考えを尊重しながらサポートをしますが、本人の口から直接考えを確認することができない以上、形式的に利益になるかどうかで判断するしかない局面に出会うことがあります。
本事案を見てみると、
- 遺産総額 : 3200万円
- 弟の法定相続分 : 4分の1 (法律で決まった取り分)
- 弟の法定相続分に相当する金額 : 800万円
となっています。
甥Xが言うように本人が元気であれば、Aがその遺産のすべてを相続することに同意してくれたかもしれません。
しかし、判断能力がなくなってしまった今においては、それを確認する方法がないのです。
裁判所もその現状を踏まえればAの単独相続を「はいそうですか」とすんなり受け入れてくれるケースは少ないでしょう。
本事案においては、被相続人である(Aの)夫が、生前に遺言書を書いておくだけですべてを解決することができました。「夫の弟」には遺留分もありませんので、遺言書の内容が覆(くつが)ることはありません。
遺留分を詳しく知りたい方は『遺産がもらえない!を解決する相続で役に立つ遺留分とは?』をお読みください。
事前対策が早すぎるということはありません。
まだまだ大丈夫と思わずに、早めの生前対策を心がけましょう。
3 まとめ
この事例は、【失敗体験談1】と非常に似ていますが、判断能力が下がった本人が「配偶者」なのか「他の相続人」なのかの違いがあります。
- 失敗体験談1の被後見人(本人) : 配偶者
- 失敗体験談1の被後見人(本人) : 他の相続人
いずれにも共通している点は、成年後見制度だけではカバーできない側面を持っており、それを他の制度とあわせて補う考え方を身につけてもらいたいということです。
制度には一長一短があります。広い視野で多角的に物事を捉えましょう。