家族信託における「税金」を具体例でわかりやすく徹底解説!
今回は、家族信託における税金についてご紹介します。
家族信託は、「認知症対策」「事業承継対策」「相続対策」などにも効果がある便利な制度です。
やらない理由がありません。
いまがはじめる絶好の機会です。
家族信託の専門家
でも、(税金が)お高いんでしょう。
相談者
どこかの通販番組のようになってしまいましたが、家族信託の話をすると相談者にとって一番気になることが「自分の希望が叶うのだろうか」ということで、そして次に関心を引くのが、
「どんな税金がかかるのか」
ではないでしょうか。
そこで、今回は家族信託をすることによって「税金はどうなるのか」をわかりやすく解説したいと思います。
目次
1 家族信託における税金
まずは、かんたんに税金の基本について振り返りましょう。わたしたちは、日常生活の中でさまざまな税金と付き合っています。一番身近なものとしては消費税があるでしょう。買い物をしたり、サービスを受けたりすると購入代金に上乗せして支払います。
他にも自分のものを売ったり、他人のものを買ったりするとかかる税金があります。不動産の売買がその代表例でしょう。
不動産の売買においては「売主」にも「買主」にも税金がかかります。
- 売主 : 譲渡所得税
- 買主 : 不動産取得税、登録免許税
など
家族信託において不動産はつきものです。そして家族信託をすると、その財産は「委託者」から「受託者」へ移ります。不動産があれば、その名義は「受託者の名前」に変更になるということですね。なんだか税金のにおいがしますね。
でも、実は「家族信託」をしても税金は基本的にかかりません。
(家族信託をしなくても、元々かかる税金は当然かかります。これは家族信託をしたからといって余計に課税されることはないという意味です)
なぜ、税金が基本的にかからないのかを知るために、どのような場合に課税されるのかを考えてみましょう。それは簡単ですね。儲かったときです。持っている資産の価値が上がったり、新しく資産を手に入れたりすると課税されます。
つまりは「新たに」利益を受けると税金がかかるということです。
家族信託の場合も考え方は同じです。新たに利益を受ける人が登場すると課税されます。これがポイントです。
よりイメージできるように、父が「自宅」を娘に信託したケースで考えてみましょう。
信託をしたことによって、娘が自宅の日々のメンテナンスを行い、これまでと同じように父がその自宅に住み続けることができます。
【登場人物】
- 委託者 : 父
- 受託者 : 娘
- 受益者 : 父
受益者とは、その家族信託によって利益を受ける人のことです。ここでの利益は、自宅で安心して生活を送れるといったところでしょう。家族信託のイメージがまだできていない方は『【初心者向け】認知症対策にも効果抜群の家族信託をかわりやすく解説!』も合わせてお読みください。
本ケースでは「自宅の所有権」が形式上、父から娘に移ります。お金を払わずに所有権が動くので普通なら贈与税がかかるところです。
しかし、贈与税はかかりません。この信託することによって利益を受けるのは娘ではなく父ですよね。父は信託をする前から自宅で生活を送っており、家族信託をしたことで「新たに利益を受けた」わけではありません。ですので、贈与税は支払う必要がないのです。
家族信託における税金のポイントは、それをしたことによって利益を受ける者(受益者)が変わるかどうかです。
まずは、このイメージを持ってください。
「でも信託の登記をすると税金がかかるって聞いたけど・・」
そのとおりです。登記をすれば登録免許税という税金がかかります。
「登記をすれば」という表現を使ったのは、仮に登記をしなくても家族信託の効力に影響はないからです。しかし、実務上、登記をしなければ受託者として仕事ができないのも事実です。
そこで、ここからは具体例を使いながら細かい税金について見て行きましょう。
2 具体例で家族信託における税金を覚えよう!
【具体例】
- 委託者 : 父
- 受託者 : 娘 → 息子
- 受益者 : 父 → 母 → 娘
- 信託する財産 : 自宅・アパート・現金
※ 受託者または受益者が死亡した場合、→の順でその権利が引き継がれるものとする。
※ 自宅は父と母が住んでいて、娘は住んでいないものとする。
アパートと現金を娘に信託し、そのアパートの賃料と現金は父のために使っていきます。信託をしたあとは、娘がアパートをきちんと管理し、父の生活をサポートしていました。
それから3年後、父は静かに息を引き取りました。これからはアパートの賃料は、母の生活のために使っていくことになります。父が死亡したことにより受益者が父から母へ引き継がれました。
それから2年後、母が認知症になり自宅での生活が難しくなってしまいました。老人ホームに入りたいところですが、高額な契約金を用意することができません。
このようなケースに備えて、本家族信託では自宅を売却し、その代金を老人ホームの契約金に当てられるようにあらかじめ定めてあります。
娘は母の自宅を売却し、その代金を老人ホームに支払い、希望どおりの老人ホームに母を入れることができました。
この事例で税金を考えてみましょう。
2.1 贈与税
この贈与税については、先ほどもご紹介しましたね。結論は言うまでもなく、本ケースでは贈与税はかかりません。この考え方は、家族信託における税金の基本になりますので、改めて説明させてもらいます。
贈与税はタダで財産をもらうとかかる税金です。贈与税は有名な税金なので聞いたことがある人も多いでしょう。
「家族信託もタダで財産が動くよね?」
はい。そうですね。
「じゃあさ、贈与税がかかるってこと?」
いえ、そうではありません。家族信託をすると、自宅やアパートの名義は娘に移ります。そして、娘から父へは売買代金のような対価は支払われていません。でも課税されません。
家族信託における税金のポイントは、利益を受ける人(受益者)が変わったかどうかでしたね。
贈与税の趣旨(しゅし)は、タダで財産が増えた人に対して「タダで財産が増えたんだからその範囲でお金を払ってもらおう」というものです。
本家族信託に当てはめてみましょう。受託者である娘は、アパートの名義人になりますが賃料をもらっているのは父です。娘にしてみれば大変なお仕事(アパートの管理)をしているだけで賃料は1円ももらっていません。
そんな娘に贈与税を払わせたのでは、娘としては納得できないですよね。ですので、家族信託をしただけでは贈与税を支払う必要はないのです。
もしも、家族信託して受益者を「父以外の人」にすると贈与税の対象になってしまいますので注意しましょう。
2.2 不動産取得税
不動産を手に入れると、不動産取得税という税金を支払うことになります。
「ってことは、娘が不動産取得税を払わないといけないの?」
いえ、払う必要はありません。不動産取得税も「財産的価値のある権利」を取得した人に対して課税するものです。先ほどの言い方をすれば実際に「利益を受けた人」が払うということです。
「財産的価値のある権利?」
不動産を信託した場合における財産的価値のある権利とは、何でしょうか。家族信託をすることによって、
- 受託者である娘には、自宅やアパートを管理する責任が生まれます。
- 受益者である父は、自宅に住め、アパートの賃料をもらうことができます。
もうおわかりですね。税法上は、受益者が持っている「受益権(利益を受ける権利)」に財産的価値があると考えます。ですので(信託をしている不動産についての)不動産取得税は、そのもの自体の所有権が誰にあるのかではなく、
誰が利益を受ける権利(受益権)を持っているのか
で判断します。つまりは誰が受益者かということですね。不動産について、家族信託の前後を通して「利益を受けている人」は父です。何も変わっていません。ですので、税法上は「娘」が財産権を取得したとは考えずに不動産取得税もかからないのです。
2.3 固定資産税(注意)
不動産を持っていると固定資産税という税金を納めることになります。
「もうわかったぞ。これも父が払うんだな」
いえ、実はこれは娘に納税義務があります。固定資産税は毎年1月1日現在の「所有者(名義人)」に納税義務があるとされています。
固定資産税はすべて形式的に判断され課税されますので、実質的所有権は父だと言っても考慮されることはありません。
しかしこの固定資産税も本来は、利益を受ける父が払うべきですよね。納税義務者を個人の契約で代えることはできませんが、契約の中で父の財産から支払うと定め、娘のお財布から出さなくてもいいように手当てをすることをオススメします。
2.4 所得税
所得税とは、個人の1年間の所得にかかる税金です。アパートの賃料収入は、不動産所得といって所得税の対象になります。
家族信託をしていると、この所得税も誰が支払うべきなのかが問題になります。本件では受託者である娘が、そのお仕事として「賃料の督促」や「その賃料の受領」をしています。ということは、娘が賃料を支払うべきなのでしょうか。
「どうせ、実際に利益を受けている父が払うんでしょ!」
そのとおりです。賃料を直接、受け取っているのは娘ですが、その賃料は父のために使われています。ということは利益を受けているのは父ですね。
家族信託におけるその賃料は、父の所得として税金を納めることになります。
2.5 登録免許税(例外)
先ほど少しお話をしたが、「信託の登記」をすると登録免許税という税金を納めなければなりません。
「登記」は家族信託の効力要件ではありませんが、信託する財産に不動産があるときは「登記」をしないと実質的には何もできません。
なぜなら、不動産取引は「(不動産)登記」を信用して行うことになっているからです。
たとえば、ある土地について「自分が所有者だ」と名乗る者が「ふたり」現れたとします。AさんとBさんだとしましょう。不動産登記には「Bさん」が所有者と書いてあります。
この場合、みんなは「Bさん」を所有者と信用して取引をすることになります。
家族信託をした場合も同じで、「取引をしようとする者」は「受託者と名乗るその人」が「自宅を売却する権限があるのか」「アパートを貸す権限があるのか」などを不動産登記を見て確認します。そこに書いてなければ誰も相手にしてくれません。
ですので、信託の登記は家族信託の効力とは関係ありませんが、実務上、しなければ何もできないため必ず登記をすることになります。本ケースでも自宅とアパートについて信託の登記をし、税金を納めることになるでしょう。
2.6 相続税
本ケースでは信託を設定してから3年後に父が亡くなり、「受益者」が母に変わっています。この変更は、相続ではなく信託(契約)の定めに従って行われています。
「じゃあ、相続税はかからないの??」
いえ、実は相続税がかかります。この変更の事実だけに着目すると、「ある人が亡くなって権利(受益権)が動く」という相続と同じような構成になっています。ですので、税法上は相続と同じ取り扱いをしていきます。
2.7 譲渡所得税
不動産を誰かに譲(ゆず)るときに、譲渡所得税という税金がかかることがあります。
一番わかりやすいのは不動産を売却したときでしょう。買った値段よりも高く不動産が売れると「譲渡所得税」を納めることになります。
本ケースおいては不動産(の所有権)が2回動いていますね。
- 信託の設定時( 父 → 娘 )
- 老人ホームの契約金を作るための売却時( 娘 → 買主 )
1は、受託者へ名義が変わっていますが、これは(信託財産である)「自宅」と「アパート」の管理をするために形式的に変更しているだけです。実際に利益を受けている人は、信託の前後で変わっていません。ですので、譲渡所得税がかかることはありません。
2の売却は、譲渡所得税の対象になります。ここまでは何となく説明を受けるまでもなく予想ができたのではないでしょうか。問題は「誰が払うのか?」です。
たとえば、2000万円で手に入れた自宅を3000万円で売れたとしましょう。このときも税金を支払う人は、実際に「利益を受ける人」です。
この3000万円を実際に手にいれて、自分のために使えるのは、その時に受益者である母です。ですから、税金の支払いも母がすることになります。
「そういえば、自宅を売却した場合は優遇措置があるって聞いたけど・・」
そうですね。「自宅」を売却した場合、3000万円までは税金がかかりません。家族信託をしていても、この優遇措置は使えます。
売却は名義人の娘が行いますが、実際に利益を受けるのは、そこに住んでいる母です。家族信託をしていない人と何も変わりません。ですから家族信託をしているという理由だけで優遇措置が使えなくなるのは変ですよね。
【ワンポイント】
不動産を信託すると、売却できるものが2つあります。それは、
- 不動産そのもの
- 受益権
です。本ケースでは不動産そのもの売却ですが、受益権だけを売ることもでき、その場合も譲渡所得税の対象になりますので注意しましょう。
まとめ
家族信託における税金を説明させていただきました。
税金のポイントは、家族信託の前後を通して利益を受ける受益者が変更になるかどうかです。
わたしが、よくサポートさせてもらう家族信託は認知症対策が中心ですので、スタートは「委託者」が「受益者」にまります。ですので、税金は基本的にかかりません。
ただし、不動産がある場合には「信託の登記」をする必要があるので登録免許税という税金だけは納めることになります。