【必読】遺言書の大切さを教えてくれた物語|遺言書の種類やその特徴もわかります!
遺言書の大切さを私に教えてくれた出来事をご紹介します。
文章を読むだけでは、遺言書の大切さを実感しもらうのは難しいかもしれません。
これを読んでも99%の人は行動に移さないでしょう。でも、たとえ1%の人であったとしても「遺言書」や「事前対策」の大切さが伝わればと思いこの体験談をご紹介させていただきます。
このページは2部構成で作ってあります。
物語を読んで「遺言書を書いてみようかな」と思った方のために第2章では、遺言書の基本をわかりやすく解説しています。
- 第1章 遺言書の大切さを教えてくれた物語
- 第2章 遺言書を書くための基本(種類や特徴)
遺言書の基本を先に知りたい方は『3 遺言書を書く前に考えてほしいこと』からお読みください。
目次
1 遺言書や相続対策の大切さを教えてくれた出来事(第1章)
私が経験した出来事です。
私は「直接の担当」ではありませんでしたが、ぜひあなたにも知ってほしいエピソードなのでご紹介します。
相談者の話しをもとに再現しました。
A ・・・この物語の主人公
B ・・・Aの内縁の妻
息子 ・・・Aの息子
1.1 突然、Aの体に起こった異変
A(67歳・男性)さんには、ひとり息子がいます。血のつながった家族は「この息子」だけでした。
奥様は25年前に亡くなっています。
Aさんは15年前に知り合った「内縁の妻B」とふたりで静かに暮らしていました。
息子の心情を考え、Bさんとは籍は入れていません。
ある日、風邪ひとつ引いたことがないと豪語していたAさんの体に異変が起きます。
食べ物を胃に入れると、必ずもどしてしまいます。
『なにかおかしい』
と思いながらも疲れているだけだろうと、自分に言い聞かせるA。
一緒に生活しているBさんは、その異変にすぐに気がつきました。Bさんは、嫌がるAを引っ張って病院へ。
診断は「余命1年」
1.2 公正証書遺言に託したAの想い
胃がんの末期でした。
これを冷静に受け止めるA。
Bさんは、Aの診断結果を受け入れることができず、取り乱してしまっています。それを見ていたからこそ、Aさんは「自分が冷静でいなければ」と思ったのかもしれません。
法律上の妻ではないBさんに「Aの遺産」を相続する権利はありません。
Bさんも、それを承知でAさんと暮らしていました。
文句ひとつ言わずに家事をこなすBさんを、Aは心から感謝しています。
Aさんは、Bさんに財産の一部を分け与えるため遺言書を作ることを決意しました。
1.3 遺言書について司法書士に相談
Aさんの財産は、自宅のほかに、
- アパート一棟 : 5000万円相当
- 預貯金 : 3000万円
があります。
さっそくAさんは司法書士の事務所に行き、公正証書遺言を作るための準備に取り掛かります。
Aが公正証書で遺言書を作ることにしたのには、理由があります。
「内縁の妻」に遺産を遺すという他人から色眼鏡で見られるリスクを考え、本当に自分の気持ちで書いたことを客観的に証明してもらうためです。
その遺言書の内容は、
- 預金2500万円を内縁の妻Bへ
- その余はすべて息子へ
というものです。
司法書士はすぐに「遺言書の内容」と「公証人との面談の日程」を調整しました。
一刻を争うと考えた司法書士は、他の案件をよりもこちらのスピードを優先して進めます。公証人にも無理を言って面談日を決めました。
「3日後に公証人がご自宅までお伺いします」
司法書士からAさんに連絡がありました。
命が助かるわけではないが、ひとつの心配がなくなったAさんは、大きく息を吐き、穏やかな表情で湯呑みに口をつけます。
1.4 届かなった想い
しかし、恐れていた事態が起こります。
公証人との面談が明日にせまった木曜の昼に、Aの意識が突如としてなくなりました。
「Aさん、Aさん、聞こえる」
Bの懸命な呼びかけにも一切反応がありません。
すぐに病院へ。
やれることはすべてやりました。
あとは運を天に任せて待つしかありません。
しかしBさんの祈りも虚しく、Aさんは意識を失ってから16時間後に息を引き取りました。Aさんは遺言書を書くことができませんでした。
相続人ではないBさんは、Aさんの遺産を一切受け取ることができなくなってしまったのです。
2 事前対策・相続対策の大切さを忘れないでください
「事前対策が大切」
これを否定する人はいないでしょう。
「誰もが事前対策は大切だと思っている」、でも重い腰をあげ、行動に移せる人は多くはありません。
心のどこかで他人事だと思ってしまっているからです。
紹介した事例は「相続」と「遺言書」についてですが、これは他のケースでも当てはまります。
例えば、「任意後見」もそうです。
判断能力が下がれば、裁判所が選ぶ後見人ではなく、自分で選んだ後見人にサポートしてもらいたいと思うのが普通です。
でも行動には移せません。すぐに任意後見契約をするべきですが、元気なうちはこれができないのです。
- まだ大丈夫
- もう少し経ってからしよう
- 焦る必要もない
こう考えているうちに、もしもの時はやってきます。
「家族信託」もそうです。判断能力が下がってからでは「信託の契約」も結べません。
事前対策が早すぎるということはありません。早ければ早いほどいいものです。
もしも、その対策が自分の求めるものと違っていたとしても、早く行動することによって方向転換もすることができます。
これも早く動くからこそできるのです。
「あの時、こうしておけばよかった」
後悔しないためにも思い立ったらすぐに行動に移しましょう。
先ほど紹介した物語を読んで、遺言書を書いてみようと思った方のために遺言書の基本をわかりやすくご説明したいと思います。
『【保存版】なぜ一般人が遺言書を書くと無効になるのか?遺言書の書き方や要件をストーリーで覚えよう!』
3 遺言書を書く前に考えてほしいこと(第2章)
『遺言書を書く』
この思いが頭をよぎると、まず遺言書の「メリット」や「デメリット」を調べます。
そして、
- 遺言書には、どのような種類があるのか?
- どの種類の遺言書が、もっとも自分に合っているのか?
- そもそも遺言書は書いたほうがいいのだろうか?
このようなことに意識を奪われてしまいます。
でもちょっと待ってください。本当に、それを一番に考えるべきなのでしょうか。
違います。
あなたがはじめにすべきことは、「どのような未来になってほしいのか」という自分の願いを明確にすることです。
いまひとつピンと来ないと思うので、先の事例で考えてみましょう。
Aは「どのような未来」を望んだのでしょうか。
それは「(自分がいなくなったあとも)内縁の妻Bが将来にわたって生活に困らないようにしたい」と願ったのです。
『自分がどのような未来を望んでいるのか』
「自分の願い」を明らかにすることから「遺言書」は、はじまります。
これは、すべての相続対策・事前対策に共通した考え方です。
- 家族信託でも
- 任意後見でも
- 遺言書でも
すべて同じです。
最初にあなたがすることは、遺言書のメリットやデメリットを調べるのではなく、「自分が何を望んでいるのか」を明らかにすることなのです。
そして、その願いが分かったら、それを実現するための手段には何があるのか考えます。必ずこの順番で考えていきます。
- 自分の願いを明らかにする
- それを実現するための手段を選ぶ
この順番を忘れないでください。
その手段は「遺言書」かもしれませんし、「任意後見」かもしれません。はたまた「家族信託」かもしれないわけです。
では、その手段が遺言書だとして話を進めましょう。
4 遺言書の種類とその特徴
一口に遺言書といっても、実はたくさんあります。
- 普通方式の遺言
- 特別方式の遺言
さらにこれらを細かく分けることができます。
ただ、あなたが特別方式の遺言を書くことはまずありませんので、ここでは普通方式の遺言書について詳しく見ていきます。
普通方式の遺言書には次の3つがあります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
一つ一つ覚えていきましょう。
4.1 自筆証書遺言
突然ですが、「遺言書」をイメージしてください。
イメージできましたか?
いま思い描いた遺言書が「自筆証書遺言」です。違っていたら、ごめんなさい。自筆証書遺言は、遺言書の中でも一番お手軽で、かんたんに書くことができます。
その内容のすべてを自分で書いた遺言書を「自筆証書遺言」といいます。
- 遺言書の本文
- 日付
- 氏名
これをすべて自分で書いて、これに「印」を押せば出来上がりです。
先ほどの「あなたの望む未来」が見えていれば、すぐにでも書きはじめることができます。
用意するものは、次の3つだけです。
- ペン
- 紙
- 印鑑
誰の家にでもあります。改めて買い物に行く必要もないでしょう。これを用意すれば、いつでも書き始めることができます。
ポイントは「すべて自分で書く」ことです。他人に書いてもらったり、パソコンで印字したりすると無効になってしまいます。
これだけは気を付けましょう。
4.2 公正証書遺言
公正証書遺言とは「公証人に書いてもらう遺言書」です。
遺言書の内容を自ら考えて、それを公証人に伝えます。そして公証人が遺言書として完成させます。
よく勘違いしている人がいますが、
「公証人が勝手に遺言書の中身を考えて、あなたに合った遺言書を書いてくれる」
これは、間違いです。
どのような内容の遺言書を作るのかは、あなたが自分で考えます。遺言書はあなた次第です。
遺言書は、あなたの願いを実現するための手段です。だからこそ、まずはあなたがどのような未来を望むのかを考えてください。
そして、その願いを叶えるための遺言書を作りましょう。
4.3 秘密証書遺言
イメージとしては自筆証書遺言と公正証書遺言の中間に位置するような遺言書です。
秘密証書遺言とは、遺言書自体は自分で作ります。そして公証人に次の2つを証明してもらいます。
- 自分の意思に基づいて遺言書を書いたこと
- 遺言書の存在
自筆証書遺言では「遺言書が発見されなかったり」「本当に本人の真意に基づいて書いたのかが争われたり」しますが、この秘密証書遺言ではその心配がありません。
公正証書遺言と違って、遺言書の内容も「公証人」や「証人」に知られることもありません。
公証人も含めて遺言書の中身を秘密にできるので、「秘密」証書遺言というのです。
5 遺言書のポイント|曖昧な文言は避ける
どの種類の遺言書を選んだとしても、「曖昧な文言や表現」を使うのは避けましょう。
実際に「遺言書の文言が原因」で裁判になってしまったケースもあります。
その争いになってしまった遺言書の文言をご紹介します。
『私の遺産は、すべて長女の山田花子に任せます』
これが問題になった文言です。 ※固有名詞は変えてあります。
日本語とは難しいものですね。
「任せます」
悩ましい言葉です。あなたは、この言葉をどのように捉えますか。人によって受け取り方はさまざまでしょう。
あなたも次のような考えが、頭に浮かんだのではないでしょうか。
- すべての遺産を長女にあげた
- 長女に遺産分割の音頭を取ってほしい
- 遺産分割がされるまでの間、遺産の管理を長女に任せただけ
この遺言書を発見した相続人たちも自分たちにいいように解釈しました。
長女は「1 すべての遺産を長女にあげた」と考え、他の相続人は「2または3」と考えたのです。
実際のケースでは、相続人たちの話し合いは決裂し、その判断を裁判にゆだねることになってしまいました。
そこで下された審判は、「長女にすべての遺産を相続させるとの内容の遺言書だ」と判断されました。
【注意点】
この判断は、あくまでもこの案件の家庭環境や相続人たちの生活環境を総合的に考慮して、遺言者はおそらくこのように考えたのであろうと裁判所が考えたにすぎません。
状況が変われば、まったく違った結末になってもおかしくはないでしょう。
ここで伝えたいことは、「曖昧な文言は争いの火種になるので、誰が見てもわかりやすい文言で遺言書は作ろう」ということです。
6 遺言書に書けること
いざ遺言書を書こうとしても、なかなか筆が進まないこともあるでしょう。
「自由に書いていいのはわかった」
「でも実際に書き始めると、何を書いていいのかわからない」
そんな悩みを抱えている、あなたのために遺言書に書くことで効力が発生する事項をご紹介します。
6.1 相続人の排除(はいじょ)
生前に「相続人からひどい仕打ちをされ、虐待を受けていたような場合」は、その相続人から相続権を奪う「相続の排除」という申し出を家庭裁判所にすることができます。
この「相続排除」を遺言書ですることもできます。生前にしてしまうと、虐待がひどくなる可能性があるためです。
民法
第892条
遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。第893条
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言の効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼって効力を生ずる。
6.2 相続分の指定
被相続人は、遺言書で「相続分を指定する」ことができます。
法定相続分を覚えていますか。
これは法が「相続人たちは、このくらいの割合でわけるのが公平でいいのではないか」と考えた取り分です。
しかし、それぞれの家庭環境によっては、当てはまらないケースもあるでしょう。そこで、被相続人は遺言書で自由に相続分を指定することができるようにしたのです。
でも遺留分は忘れないでください。遺留分には注意しましょう。
民法第902条
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することはできない。
2 以下省略
6.3 遺産分割の指定と分割の禁止
被相続人は、遺言書で「遺産分割の指定」と「遺産分割の禁止」をすることができます。
遺産分割の禁止とは、その名のとおりで「遺産分割をできなくする」ことです。
遺産分割ができないということは、相続人みんなで遺産を共有している状態で生活しないといけません。
他のページでも説明していますが、遺産の共有状態は望ましいものではなく、たくさんの危険が潜んでいます。
そこで、法は分割を禁止できる期間を5年までと定めています。
もうひとつの遺産分割の指定という表現はわかりにくいので、具体例を出しながら解説します。
例えば、
相続人 : 長女 と 二女
という相続があったとします。
被相続人が遺言書で、「土地Aは長女が相続し、預金Bは二女が相続する」と書けば、これが遺産分割の指定です。
6.4 遺贈に関すること
遺贈とは「遺言書による贈与」です。
そして、これは遺言書に「贈与する」と書けば、相続人ではない人へ遺産をあげることもできます。
6.5 内縁の妻と子の認知に関すること
遺言書で子供の認知をすることもできます。
生前には、いろいろな「世間のしがらみ」があって認知ができないケースもあるでしょう。
しかし、その子も「あなたの子供」です。
最後に親子関係を作って、遺産を相続させる権利を与えたいと思う親心を叶えてくれる制度が、遺言書による認知です。
6.6 後見人の指定
未成年後見人を遺言書で指定することができます。
未成年の子供をのこして死んでしまうケースもあるでしょう。未成年者は、未熟であるため一人で生きていくことはできません。
未成年者に対して親権を行う人がいないときは、後見がはじまります。
かんたんに言うと、親権を行っていた親が死んでしまうと「その親の代わりに子供の面倒を看てくれる未成年後見人」選ぶということです。
この未成年後見人を、遺言書で指名できるように次のようなルールがあります。
民法839条
未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。
ただし以下省略
6.7 遺言執行者の指定
遺言書で遺言執行者を定めることができます。
遺言の内容は、必ずしも相続人にとって利益になるとはかぎりません。
相続人の不利益になることを、相続人自らが積極的に行ってくれることを期待するのは難しいでしょう。
そこで遺言の実効性を担保するめに、遺言執行者を選任することができるようになっています。
7 まとめ
いかがでしたでしょうか。
遺言書の大切さがわかる物語としてご紹介させていただきました。
「事前対策が大切」だと、誰もがわかっているのに、行動に移せる方は多くありません。
『もう少し経ったらやろう』
このように思っている間に、対策が取れない状態になってしまいます。この物語を読んで一人でも多くの人が行動に移してくれることを心より祈っております。