未成年者の相続!スムーズに相続を進めるたに知っておきたいポイント
あなたがこの記事を選ばれたということは、おそらく相続人の中に未成年者がいるのでしょう。
はじめにお伝えします。
未成年のこどもは、相続手続きを自分で進めることができません。
これを言うと、
- じゃあ、どうすればいいんだ~
- 未成年者は遺産を相続することができないのか?
- 成人するまで待たなければいけないの?
と困惑の表情を浮かべる方がいますが、もちろん、そんなことはありません。
先に、ほぼ答えとなってしまうポイントを言ってしまいます。それは「特別代理人の選任」です。このポイントを覚えておいてくださいね。
では「なぜ未成年者が遺産分割をできないのか」「特別代理人とは何か?」「特別代理人の選任から遺産分割までの流れ」についてご紹介します。
目次
1 なぜ未成年者はひとりで相続手続きを進めることができないのか?
『未成年者が親の財産を相続した』
このようなケースも珍しいことではないでしょう。
「母」と「未成年の息子」が父の遺産を相続し、ふたりで遺産分割をする。
特に変なところはありませんよね。
でも、これは認められません。
なぜでしょうか?
それは、未成年の息子が不利益を受けるかもしれないからです。
法は未成年者を、次のように考えています。
- 成人していない子供は、なにが正しいのか自分では判断できない
- 人生経験も少なく、ひとりで行動させるのは危険だ
- 間違った選択をしてしまい、不利益を受けてしまう
このように考え、未成年者を守るために、未成年者の行動には制限が加えられています。
あなたも、この制限について経験したことがあるのではないでしょか?
あなたのお子さんは携帯電話を持っていますか?
もし持っていると答えた方は、買った時のことを思い出してください。
こどもがひとりで携帯ショップに行って携帯を買えましたか。
買えませんよね。
ショップ店員から、
「今度、お父さんかお母さんと一緒に来てください」
このように言われて帰ってきたのではないでしょうか。
未成年者は、自分ひとりで契約をすることができません。
未成年者が契約するためには、
- 親が代理人としてハンコを押す
- 親の同意を得る
どちらかが必要です。
遺産分割も同じです。
まだ経験の浅い未成年者は、ひとりで遺産分割協議をすることができません。
遺産分割協議をするためには、その未成年者のために代理人をつける必要があります。
このケースで、親はこの代理人になることができるのでしょうか?
2 遺産分割だと親権者は代理人になれない?
こどもは、自分ひとりの考えで契約をすることができないと説明しました。
その場合は、親が子を代理するか、親の同意を得なければいけないのでしたね。
では、先ほどの遺産分割の例に戻って考えてみましょう。
今度は、母とその息子が遺産分割の話し合いをするのではなく、「母ひとり」で息子の代理人も兼ねて遺産の分け方を決めました。
これは、どうでしょうか?
「親が代理しているので有効な遺産分割だ」
このように思いましたか?
先ほどの話しからすると良さそうですよね。
でもダメなんです。
親がこどもを代理できるのが原則なのですが、これには例外があります。
それは親が、こどもにとって不利益なことをしてしまうシチュエーションになった場合です。
親が、こどもに不利なことをする
「そんなことがあるわけない」
このような声が聞こえてきそうです。
でも、こどもにとって不利なことをしてしまうケースがあるのです。
例えば、父親の時計を高校生の息子に売るとしましょう。
この売買について、父が息子を代理できるとすると、どうなりますか?
父親が自由に値段を決めることができてしまいます。
1万円の時計を10万円にしてしまうかもしれません。
そうなれば、息子は9万円も損をします。
このようなシチュエーションでは、親を信用することができません。
こどもの利益を守るため、何か方法を考える必要があるわけですね。
もちろん、わかっていますよ。
自分の利益のために、こどもが不幸になってもいいという親は少ないでしょう。
でも、ゼロではありません。
少しでも可能性があれば、それは避けたい。
これが法の考え方です。
【ポイント】
こどもが、実際に不利益を受けるかどうかは関係ない。
もう一度、例を出します。
父親の1万円の時計を息子に、1000円で売ったとしましょう。
息子にとっては、ありがたい話ですよね。
9000円も得をします。
でも、認められません。
息子に有利な内容だとしても、父親が息子を代理して契約をすることはできないのです。
【ポイント】
親がこどもを代理できるかどうかは、そのシチュエーションの見た目から判断される。
親が自分の利益のために子供を犠牲にする可能性が、たとえ1パーセントしかなくても親がこどもを代理することはできません。
冒頭の、母とその息子の遺産分割について考えてみます。
このシチュエーションは、母は息子を代理できるパターンでしょうか?
母親が、息子を代理して遺産分割協議をすることができると思いますか?
どうですか。
こどもの取り分が減ると、親は得をしますか、それとも損をしますか。
得をしますよね。
ということは、お母さんは息子を代理して遺産分割をすることはできません。
では、どうすればいいのでしょうか。
この場合は、遺産分割について、こどもを代理してくれる人を別に選びます。
この人を特別代理人といいます。
では、特別代理人を詳しく見ていきましょう。
3 遺産分割における特別代理人とは?
特別代理人とは、特定の行為だけを代理する人です。
ここでは、遺産分割をするためだけに選ばれる人です。
遺産分割が終われば任務完了になります。
3.1 特別代理人の選任
特別代理人は、家庭裁判所に選んでもらいます。
こどもの住所地を管轄する家庭裁判所へ、特別代理人を選んでくださいとお願いすることになるわけです。
申し立てをするためには次の書類をご用意ください。
- 申立書
- 未成年者の戸籍謄本
- 親権者の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票
- 遺産分割協議書の案(利益相反に関する資料)
用意する書類はケースによって変わることがあります。
3.2 特別な資格は必要なのか
特別代理人には、誰でもなることができます。
このような遺産分割のケースでは、親族の方がなるのが一般的です。
祖父母や、おじさん、おばさんでもかまいません。
代理人になってくれそうな人に頼みましょう。
候補者が、どうしても見つからない場合は司法書士がなることもあります。
3.3 特別代理人が遺産分割へ参加する
特別代理人の申立を行い、裁判所から判断が下るまで、1か月ほどかかります。
その後、裁判所に提出した遺産分割案にしたがって、遺産分割の話し合いをします。
その分割案をムシした分割協議をしたらダメですよ。
特別代理人の選任は、子供のためのものです。
その過程で、裁判所は遺産分割の内容をチェックしています。
- こどもが不利な遺産分割になっていないか
- 法定相続分にあたる財産はもらっているのか
- 親が、子に比べて有利になっていないか
これらを踏まえて審判を出しているわけで、遺産分割案と違う内容は認められません。
状況が変わって、遺産分割の内容を変える時は、事前に裁判所へ相談しましょう。
3.4 子供がふたりなら特別代理人もふたり
この特別代理人は、こども一人つき、代理人をひとり付けます。
ふたりの子供がいれば、特別代理人もふたり必要です。
これも、こどもの利益を守るためです。
例えば、ふたりの子供に対して、代理人がひとりだったとします。
その代理人がどちらかの子供に肩入れすれば、どうなりますか
もうひとりのこどもが不利益を受けています。
先ほどの母親と息子のケースと似ていますね。
このようなシチュエーションは、どうするのでしたか。
そうです。
避けたほうがいいのです。
そこで、こども一人に対して、特別代理人も一人選えらばなければなりません。
4 どのような遺産分割をすればいいのか
「母親がすべて遺産を相続する」
このような内容の遺産分割協議書は認められません。
特別代理人を選ぶ目的は、どのようなものでしたか。
こどもの利益を守ることです。
裁判所は、こども利益を守るために、こどもの取り分が法定相続分以下になるような遺産分割は認めません。
もし、母親がすべて相続するのであれば、そのようにしなければならない理由が必要です。
誰が聞いても、それなら仕方ないといえるだけの理由が必要です。
未成年のこどもが相続人になる遺産分割の話し合いでは、こどもが不利にならないような分割案を考えましょう。
5 結婚してれば特別代理人がいらない!
未成年のこどもが結婚していれば、特別代理人を選ぶ必要はありません。
そのこどもが単独で遺産分割の話し合いをすることができます。
「結婚すれば一人前」
親戚のおじさんが言いそうなフレーズですね。
実は、法律も同じように考えています。
この効果によって、年齢にかかわらず、成年(大人)として遺産分割協議をすることができるようになります。
6 相続人が胎児だったら
母親のおなかの中に胎児がいる場合、胎児は相続人になるのでしょうか。
胎児も相続人になります。
胎児を無視した遺産分割協議は無効です。
胎児が無事に生まれたあとに、特別代理人を選任し、遺産分割をすることになります。
胎児が出生する前に、遺産分割することができるのかについては、さまざまな意見がありますが、判例の立場から考えると難しいでしょう。
7 まとめ
未成年者(息子)とその親権者(母)が相続人になる場合、遺産分割協議をするためには特別代理人を選ばなければいけません。
未成年者にとって、有利な遺産分割の内容になっていても、それは変わりません。
もし、代理人が選任されていなければ、その遺産分割協議のやり直しになってしまいます。
無駄な時間を使わないためにも、ルールは守って進めましょう。