身体が不自由な方は成年後見制度を利用できるのか?
- 「身体が不自由なので、介護サービスを受けている」
- 「将来も心配なので、成年後見制度を利用したい」
- 「その場合、どのような流れになるのか」
このような相談を受けました。
そこで今回は、「身体が不自由な方」も成年後見制度を使うことができるのかについてお話をしたいと思います。
1 身体が不自由という理由で成年後見制度を利用できるのか?
身体(からだ)が不自由で日常生活を送るためには、「家族のサポート」を受けなければならない人について、成年後見制度を利用することはできるのでしょうか。
結論から言うと、身体が不自由なだけでは「成年後見制度」を利用することはできません。
成年後見制度は、「精神上の障害」により正しい判断ができなくなった人を支援することが目的だからです。
たとえ身体が不自由で、「日常生活のサポートを必要としている人」でも判断能力があるかぎり成年後見制度は利用できません。
なぜでしょうか。
それは判断能力があれば必要に応じて、個別に「預貯金の管理」や「身の回りの世話」を頼み、その代理権を与えれば、こと足りてしまうからです。
本人の行動や考えを制限してしまう成年後見制度の対象は、できるだけ限定すべきです。
こちらを深く理解してもらうために、私的自治の原則(してきじちのげんそく)についてお話します。
2 私的自治の原則|私たちの生活の根幹!
「私的自治」という言葉を聞いたことはありますか?
私的自治の原則とは、自分の「自由な意思」によらなければ、「権利を取得すること」も「義務も負うこと」もなく、国家といえどもそれについて口出しはできないという考え方です。
私たちが生活するうえで、とても大切な考え方です。
例えば、あなたが夕飯のおかずを買いに行くとします。
- どこのスーパーで買うのか
- 肉を買うのか、魚を買うのか
- いくら使うのか
それは、あなたが自由に決めることができます。誰からも強制されることはありません。たとえ命令されたとしても、それに従う必要もありません。
また、「自分の知らないところ」で、保証人になっていたり、借金を背負ったりすることもありません。
さらに、自分にとって「利益になる行為」だとしても、自分の意思によらなければ認められることはありません。
簡単に言ってしまえば、「自分のこと」は「すべて自分で決めることができる」ということです。
この当たり前のルールが私的自治です。
これがなければ自分の知らないところで、借金を負ってしまいその借金を返すために、「自分の大切な時間を犠牲にしなければいけない」といった事態が起きてしまう可能性すらあるわけです。
3 成年後見制度は「私的自治の例外」
成年後見制度はどのようなものでしたか。
この制度は、後見人に代理権や同意権を与え、「本人の意思とは関係なく」後見人が本人のために行動し、「本人はそれを受け入れる」仕組みになっています。
判断能力がない人は、「いま自分に何が必要」で「何をしてもらえばいいのか」がわかりません。
このような方については、法律で強制的に支援者に代理権を与え、行動してもらうしかないわけです。
言うなれば成年後見とは、私的自治という根本的なルールに「修正を加える例外」です。
この修正は、最低限に留めなければいけません。
ですから「判断能力のある方」については、本人の「行動」や「考え方」に制約を与えてしまう成年後見制度の対象にするべきではないのです。
中には個別に毎回、頼むのは手間だなと考える人もいるでしょう。
そのような場合は、まとめて事務を任せることができる財産管理契約を結ぶといいかもしれません。
4 将来の「もしも」に備えるなら任意後見がオススメ
身体が不自由という理由だけでは、成年後見制度を利用することはできません。
それでも、
- 「将来が不安だ」
- 「もしもの時に備えておきたい」
- 「何か方法はないだろうか」
このような方にオススメなのが、「任意後見制度」です。
法定後見とは違って、あなたが「信頼している人」に後見人になってもらえ、さらに将来にもしもの時が来たらサポートを受けることができます。
5 まとめ
成年後見は、本人(被後見人)の考えや行動を制限してしまう側面を持っています。
その制限は、最低限にとどめる必要があります。
身体が不自由でも、判断能力があるかぎり、成年後見制度は使えません。