成年後見と合わせて覚えるべき財産管理契約の全容!
身体が不自由な方でも、判断能力があれば、成年後見制度を使うことができません。
この部分を詳しく知りたい方は『身体が不自由な方は成年後見制度を利用できるのか?』をご覧ください。
成年後見が使えないと言われても、それでは困ってしまう方もいるでしょう。
- 銀行に行くことができない
- 買い物に行くのも大変
- 介護サービスの支払いができない
このような悩みを解決できるのが、財産管理契約です。
そこで、今回は財産管理契約をわかりやすくご紹介したいと思います。
1 財産管理契約とは?
財産管理契約とは「あなたの財産の管理」を「あなたの信頼できる人」へ任(まか)せる委任契約です。
これでは、イメージしにくいと思うので、具体例を出します。
- あなたは膝(ひざ)が悪く、ベッドから起きあがるのもひと苦労。
- 買い物や銀行に行くだけで大変です。
そんなとき、この財産管理契約の出番です。
預金口座から「あなたのお金」を引き出せるのは、あなただけです。買い物も同じです。
あなたが「銀行」や「お店」に行く必要があるわけです。
しかし、この契約を結んでおけば、あなたの代わりに「その信頼できる人」が、預金口座からお金を引き出したり、そのお金で買い物をしたりすることができます。
これが財産管理契約です。
2 財産管理契約は便利。だからこそ、その内容は慎重に!
財産管理契約は便利な反面、危険も潜んでいます。
あなたの財産は、「あなた」しか自由にできません。あなたの財布に入っている「お金」を他人が勝手に使えば、それは犯罪です。
当たり前の話ですが、大切な考え方です。
この財産管理契約を使えば、あなたの財産を「自分以外の誰か」に託(たく)すことができます。
「託された人」は「託された財産」については、自由にすることができます。
これってすごく危険なことだと思いませんか。
もし「悪いこと」をしようと思えばできてしますのです。
そのため、内容を吟味(ぎんみ)し必要最低限の範囲で「この契約」を結ぶことが重要になってきます。
【契約のポイント】
- 誰にお願いするのか
- どの財産の管理を任せるのか
- 管理とは具体的にどこまでできるのか
を慎重に決めることです。
契約をするにあたって専門家に頼む場合でも、このポイントの「チェック」は怠らずに、必ずご自身で確認してください。
以前、こんか相談を受けたことがあります。
(相談者からの相談内容)
- 母Aからお金が足りないから、お金を貸してほしいと言われた。
- Aには「遺族年金」と「父から相続した預貯金」がある。
- Aの生活レベルならお金に困ることはないはず。
- 詐欺にでもあっているのではないか。
というものです。
相談者は、Aの娘Bです。
その後の調査から、次のことがわかりました。
- ふだん母Aの世話は、「幼なじみであるX」がしている。
- 母AとXは、Aの財産の管理を「Xに任せる」財産管理契約をしていた。
- 母Aは、最近、もの忘れもひどく、自分の娘のこともわからなく時がある。
- 母Aは、Xの財産管理を監督できていない。
娘Bは、管理人Xに対し「契約内容」と「これまで管理状況」を教えてほしいとお願いしたが、Xは教えてくれません。
そこで、母Aについて、娘Bを補助人とする補助開始の申し立てをすることにしました。
補助人の権限に基づいて、財産管理の契約内容を確認しましたが、その内容はずさんなものでした。
専門家を入れて作ったという契約内容は、ありとあらゆる財産について、包括的(なんでもできるような)な権限を与えられたものでした。
管理人になっていた幼なじみXは、その権限に基づいて、母Aの判断能力が低下したことをいいことに、自分のためにお金を使っていたのです。
それに気づいた娘Bは、すぐに契約(財産管理契約)を解除しましたが、使われてしまったお金が戻ることはありませんでした。
このようなケースを避けるためにも、専門家に依頼する場合でも「ノーチェック」で任せるのではなく、必ず、
- 誰にお願いするのか
- どの財産の管理を任せるのか
- 管理とは具体的にどこまでできるのか
を確認しましょう。
3 財産管理契約は「だれに」頼むべきなのか
身体が不自由な方は、施設に入所しているケースも多いでしょう。
そして、「施設を運営している団体」と「その身体が不自由な方」との間で、財産管理についての契約を結んでいる方もいるのではないでしょうか。
「イエス」と答えた人は、もう一度、よく考えてみてください。
その契約には、あやうい問題が潜(ひそ)んでいます。
身体が不自由な方は、管理人が約束どおり適切に「現金」や「預金」などを使っているのか、十分に見張ることができません。
そして一番の問題は、施設と入居者との間には「利害の対立」があるということです。
「利害の対立」と言われても分かりませんよね。
利害の対立とは、「ある人」が利益になると「その相手方」が不利益になる関係です。
わかりやすいように例を出します。
例えば、スーパーであなたが200円の白菜を買うとしましょう。
これを値切って、白菜を100円で買えれば、あなたは100円の得をし、スーパーは100円を損することになります。
このように、一方の当事者が利益を受けると、他方は不利益を受ける関係を「利害の対立」があるといいます。
この白菜の売買(買い物)については、「あなた」と「スーパー」は利害が対立しているわけです。
もし、この白菜の売買について、あなたが「スーパーの代理人」になったとしたら、あなたは白菜の値段を高くしますか?それとも安くしますか?
ほとんどの方が、自分の利益のために白菜の値段を安くするでしょう。
このような危険を避けるために、「法は」このような代理行為を禁止しています。
話を戻して、施設と入居者との関係を考えてみます。
入居者は施設に対して、施設の利用料を払います。
利用料が高くなれば施設は得をし、入居者は損をします。
ここからもわかるとおり施設と入居者との間には「利益の対立」があります。
とはいっても利益の対立があるのは、入居者が施設を利用し、その対価を支払う「施設の入所に関する契約」だけです。
それ以外の預貯金の出し入れを目的とする財産管理については、直接的な利害対立の関係にはありません。
しかし、潜在的には先の事例のような問題を含んでいる以上、予期しない不利益を避けるためにも、身体が不自由な方が、財産管理をお願いする場合は、自分と利害の対立がない人を選ぶといいでしょう。
4 任意後見とセットで契約しないと危険??
なぜでしょうか。
それは、財産管理契約だけを結ぶと「監督機能」に不安が残るからです。
これをより深く理解するために、「任意後見」と「財産管理契約」の監督機能を振り返ってみましょう。
監督機能とは、代理人(後見人と財産管理人)が「悪さ」をしないように見張ることです。
それぞれ「次の者」が代理人に不正がないか、常に目を光らせています。
- 任意後見制度 : 後見監督人と裁判所
- 財産管理契約 : 本人(管理を頼む人)
任意後見は、本人の判断能力が下がったあとにスタートします。そのため本人が後見人の行動をチェックすることができません。
そこで、裁判所は後見監督人を選任し、その者を通して後見人に不正がないかチェックします。
一方、財産管理契約は本人に判断能力があることから「本人自ら」が管理人に不正がないかを見張ることになります。
これでも本人に判断能力があるうちは、問題ありません。
しかし、本人も「いつまで」判断能力があるか分かりません。本人が何もわからない状態になってしまっては、管理人はやりたい放題できてしまいます。
「信頼している人に任せているのだから、そんなことはしない」
もちろん、その言い分もわかります。
しかし後見人にしても、財産管理人にしても、はじめから不正をしようとしている人はいません。
でも不正は起こってしまうのです。最初は軽い気持ちから始まります。
人間は弱い生き物です。自分を見張っていてくれる人がいないと、つい「出来心(できごころ)」から不正に走ってしまいます。
そうならないために、任意後見契約をセットで結び、本人の判断能力が下がったら任意後見を発動させ、財産管理契約を終わらせる契約内容にするべきでしょう。
このことは忘れないでください。
5 まとめ
身体が不自由でも「判断能力がある方」は成年後見制度を使えません。
そんな時は、財産管理契約を検討しましょう。
ただし、「制度」や「契約」は役に立つ反面、危険も潜んでいます。
便利な契約だけに「その内容」は、よく考えて決めるようにしましょう。