疑似体験で相続放棄がわかる!気になる期限や無効にならないポイントを徹底解説!
- 「相続放棄をしたい」
- 「相続放棄をするか迷っている」
- 「相続放棄はしたいけど、期限が過ぎてしまった」
あなたも、このような悩みを抱えて、このページを見つけたのではないでしょうか。相続放棄は有名であるがゆえに、間違った情報も数多く出回っています。
「司法書士おと総合事務所」へ相談にきた方の中にも、その間違ったネット情報を信じて、相続放棄が認められなかったケースがあります。最初から正しい情報を手に入れてさえいれば回避することができた案件です。
そこで今回は、「相続放棄の間違いやすいポイント」を具体的なストーリを使いながら、わかりやすく解説します。
お時間がない方は、『3 疑似体験をしながら相続放棄のルールを覚えよう』からお読みください!
目次
1 相続放棄とは何か?どんな時に使うと効果的なのだろう!
相続放棄とは、その名前のとおり「相続しない」ということです。「プラスの財産」も「マイナスの財産」も引き継ぐことはありません。
「相続」と聞くと「プラスの財産」を引き継ぐことをイメージしがちですが、そうともかぎりません。借金があれば、それも受け継いでしまいますし、保証人になっていれば、その立場も引き継いでしまいます。
亡くなった方の置かれていた状況によっては、相続は「あなたにとってマイナス」に働くこともあるのです。
そんな時に活躍するのが相続放棄です。イメージをもってもらうために例を出しますね。
例えば、ふだんから仕事もせずにギャンブルに明け暮れて「借金」ばかり作っていた父親がいたとします。
プラスの財産はありません。
具体的な借金の金額はわかりませんが、借金があるのは間違いありません。
誰かの保証人になっている可能性すらあります。家賃の支払いも、毎回遅れ、督促があとを絶ちません。子供としては「父親の財産を相続したくない」と考えています。
こんなときは「相続放棄」の出番です。
あなたの強い味方になってくれるでしょう。
2 相続放棄には厳格なルールがある!
突然ですが、ちょっと変な質問をします。
近所の人が亡くなり、その人に子供がいたとします。その時、あなたは次のように考えますか?
『その子供は「相続放棄」をしているはずだ』
このように考える人は、まずいません。このような状況では「あの子供は相続したのだろう」と、無意識に考えます。
そうなんです。一般的には「相続した」と思い込み、それを前提に利害関係を持ちます。にもかかわらず、ルールを作らずに相続放棄を無条件に認めてしまうと、不利益を受ける人が出てきてしまう危険があります。
わかりにくいと思うので、またまた例を出します。
例えば、ある人が亡くなり、その長男から「遺産である土地」をあなたが買ったとしましょう。
あなたは土地の代金を支払い、土地の引き渡しも受けました。
その数日後、その長男は「相続放棄」をしてしまったのです。連絡をしても、その長男は電話にでてくれません。引っ越しをしてしまったようで、手紙も届きません。
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになりますので、その長男は「遺産である土地」については何の権利も持っていなかったこととなり、あなたは無権利者から土地を買ったことになってしまいます。
長男は無権利者である以上、あなたはその土地を取得できず、売買代金も取り返せません。
このようなケースに遭遇しても、仏のように、
「仕方ない。高い授業料を払ったと思って、あきらめよう」
と思える方がどれくらいいるでしょうか。私を含めた、ほとんどの方は諦めきることはできません。そこで、こうならないために「法律」は相続放棄について「厳格なルール」を作りました。
ここからは、事例をもとにそのルールを覚えていきましょう。
3 疑似体験をしながら相続放棄のルールを覚えよう!
【登場人物】
父 : 被相続人
長男 : 父の唯一の相続人
父が亡くなり、相続人は「長男」だけです。父は長男に見守られながら天国に旅立ちました。遺産は「30万の預金」しかありません。
その30万円は「葬儀費用」にあて、足りない部分は長男が払いました。また、「父の治療費」が未払いになっていたので「長男は自分の貯金」から、そのお金を支払いました。
少ない給料でやり繰りしながらも、父は長男のために「長男を受取人とする生命保険」をかけていました。
「そのお金(保険金)」を長男は、家族の生活費として大切に使ったそうです。
それから1年後、長男に督促状が届きました。
状況を理解できない長男。
督促状
長男(実際の氏名) 殿
私は、貴殿(長男のこと)の父の連帯保証のもと、A(父の友人)に金200万円を貸し付けました。
しかし、返済期限を過ぎてもAは返済をしてきません。
つきましては、連帯保証人の地位を相続した貴殿に対し、上記金額を請求します。
平成30年8月16日
東京都〇〇区〇一丁目〇番〇号
債権者太郎 印
どうやら「父」は「友人の連帯保証人」になっていたようです。
その友人が借金の支払いをしないまま音信不通になってしまい、父の相続人である長男に保証人として借金の請求がきてしまいました。
父は、ひとり息子に心配をかけまいと保証人であることは黙っていたようです。保証関係の資料もすべてハキしています。
さて、長男はどうなるのでしょうか。相続放棄をすることができないのでしょうか。
一つ一つ問題点を検証していきましょう。
3.1 相続放棄には期限がある。3ヶ月を超えてしまった相続放棄はどうなる?
相続放棄には、「3か月以内」に手続きをしなければいけないという期限があります。
あたなも聞いたことがあるのではないでしょうか。
まずは、条文(ルール)を見てみましょう。
【民法】
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に、相続について、単純もしくは限定の承認または放棄をしなければならない。
「自己のために相続の開始が・・・」、まわりくどい言い方ですね。
もっとわかりやすく書けばいいのに、、、と思ってしまいますね。
でも、これには理由があります。
このルールをよく見ると、「3か月という期限」以外に「もう一つ重要なルール」が定められています。
もうお分かりですね。
そうです。それは「いつから」相続放棄の期限をカウントするのかという決まりです。
このふたつを正確に表現するために、このような言い回しになっているのです。では、実際にいつからカウントがスタートするのかを読み取っていきましょう。
相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時」からカウントします。
「ん~~、わかったような、わからないような」、そんな感じですね。簡単に言ってしまうと、次のふたつを知った時からスタートします。
- (被相続人が)死亡したこと
- 自分が相続人であること
この「ふたつの事実」を知った時から「3か月以内」に相続放棄をしないといけないわけです。
では、本ケースにあてはめてみましょう。
【本ケースの当てはめ】
長男は、父の死に立ち会っています。もちろん、長男は相続人であることも知っています。
督促状が長男に届いたのは、死んでから「1年後」です。「相続放棄の期限である3か月」をオーバーしてしまっていますね。
ということは、長男は相続放棄をすることができないのでしょうか。
「いえいえ、諦めるのはまだ早すぎます」
原則には例外がつきものです。過去に次のような判例があります。
『相続放棄をしなかったのが、被相続人に借金がないと信じていて、そう考えたとしても仕方ない事情があれば、その借金を知った時から3か月以内に相続放棄をすればいいよ』
「亡くなった父」は、長男に心配をかけまいと「保証人になっていること」や「それを裏付ける資料」を念入りに破棄しています。
父親が、直接お金を借りている借金であれば、毎月の返済や支払いが滞った際の督促などで気づくこともできたかもしれません。
しかし、保証人となればそれも期待できません。その保証人としての性質を考えると、息子が気づけなくても仕方がないでしょう。
よって、本ケースでは長男の「相続放棄の期限がスタートする」のは、「督促状が届いた日」からになります。
3.2 「葬儀費用の支払い」は相続放棄における法定単純承認に当たるのか?
相続放棄には「3ヶ月の期限」のほかに気をつけなければならないルールが「もうひとつ」あります。
それは、「相続放棄の期限前」であっても「一定の行為をすると相続したものとみなすよ」というルールです。
【民法】
次の行為をすると、相続人は相続したものとみなす。1 相続人が相続財産を処分したとき。
2 以下省略
これを「法定単純承認」といいます。
例えば、遺産として預金50万円と借金50万円があったとします。相続人は相続放棄のことを知っていました。
「預金50万円」を手放すのはもったいないと考えた長男は、相続放棄をする前に「趣味の車のパーツ」を50万円で買ってしまいました。その支払いは遺産である預金から出しました。
そして、次に「相続放棄」をします。
それによって、長男は「車のパーツ」をまんまと手に入れることができ、借金は返さなくてよくなりました。
これを許せる方がどれだけいるでしょうか。あなたも、なんだか「腑(ふ)に落ちない」のではないでしょうか。「法」も、そんなズルを許しません。
このような事が起こらないように、相続人が「相続財産を使ってしまったり」「売ってしまったり」すると、それは相続したものとみなしますよ、というルールを作ったのです。
本ケースに当てはめてみましょう。
【本ケースの当てはめ】
長男は、遺産である預金30万円を葬儀代に使っています。
そうすると、この長男は相続放棄することはできないのでしょうか。
でも趣味にお金を使った場合と比べて、かわいそうな気もしませんか。
このようなケースについて、裁判所はこのように言っています。
『葬儀は人生最後の社会的儀式として必要性も高いし、必ず相当額の支出を伴う。
相続財産があるにもかかわらず、これを使用できず、相続人にお金がないために葬儀ができないとしたら、それこそ非常識だ。
したがって、相続財産から葬儀費用を支払うことは、相続財産の処分にはあたらないというべきである』
以上が、裁判所の判断です。
長男が遺産から払った葬儀費用の30万円は、平均的な葬儀費用よりも少なく、この判例から考えても、相続財産を処分したことにはならないでしょう。
長男は、遺産の30万円を使ってしまっていますが、上記の考えから相続したものとみなされることはなさそうです。
注意することは、無条件にいくら使っても相続財産の処分には当たらないとまでは言っていません。必要以上に豪華な葬儀をとり行い、一般常識を超えて高額になれば、この判例とは違った判断が下ることでしょう。
ここでのポイントは「感情」です。
- 50万円を趣味に使ったと聞いて、どう思いましたか。
- 30万円を葬儀費用に使ったと聞いて、どう思いましたか。
この感情が重要です。
裁判例を見てもらっても、このあなたが持つ感情にヒントが隠されていることが、おわかりいただけるのではないでしょうか。
3.3 生命保険を受け取ると相続放棄はできないのか?
長男は、「保険金」を自分の家族のために使っています。
- 「相続財産を使ってしまっている・・・」
- 「さっきの法定単純承認に当たってしまい、もう、相続放棄はできないのか?」
このように考える方も多いのではないでしょうか。でも安心してください。この考えは、間違いです。
保険金を使っても、相続財産の処分にはあたりません。
なぜでしょうか。それは「長男を受取人とする保険金」は、そもそも「相続財産ではない」のです。
生命保険とは、契約者(父)と保険会社との契約(約束)です。その内容は、被保険者(父)が死んだら受取人(長男)にお金を支払うというものです。
長男が、お金(保険金)を受け取れるのは契約のおかげです。「相続」をしたから受け取れるわけではないのです。保険金とは相続財産ではなく「長男の固有の権利」です。
本ケースに当てはめてみましょう。
【本ケースの当てはめ】
遺産ではない保険金を、長男がどのように使おうが自由です。
相続放棄に影響はありません。しかし、注意点もあります。もしも、受取人が被相続人になっている場合は、注意が必要です。
受取人が被相続人ということは「被相続人のお金」です。被相続人のお金は「遺産」です。それを相続して使ってしまうと、相続財産の処分とみなされてしまいます。
したがって、被相続人を保受取人とする保険金の場合は、相続放棄をすることはできません。
3.4 治療費(相続債務)の支払いをすると相続放棄はできなくなるのか?
長男は、未払いになっていた治療費を父に代わって支払っています。この長男の行動も「法定単純承認」になるのか気になるところです。
でも安心してください。長男が治療費を払ってしまった行為は「法定単純承認」にはあたらず「相続放棄」をすることができます。
もう一度、法定単純承認を思い出してみましょう。相続人が「相続財産」を処分すると、相続をしたものとみなされるのでしたね。
長男は治療費を「自分の預金」から支払っています。自分の預金は、もちろん相続財産ではないので、法定単純承認にはあたりません。
この問題について裁判所が判断を下した裁判例があるのでご紹介します。
被相続人の子が被相続人の相続人につき、民法915条1項所定の熟慮期間中に、被相続人を被保険者とする障害保険から請求した保険金200万円を受領したうえ、これを被相続人の債務の一部の弁済に充てたが、抗告人らが受領した保険金は、抗告人ら固有の保険金請求権に基づくものであり、被相続人の相続財産ではないから、これは熟慮期間中に抗告人らが同法921条1号の相続財産の一部を処分したことにはならない。したがって、抗告人らの本件相続放棄の申述は家庭裁判所において受理されるべきである。
参照元:平成10年12月22日福岡高等裁判所宮崎支部 事件番号 平10(ラ)50号
治療費や借金などの債務を払ってしまった行為が「法定単純承認」にあたるかどうかのポイントは「誰のサイフ」から出したのかどうかです。
- 父(被相続人)のサイフから支払った場合
- 長男(相続人)のサイフから支払った場合
もしも、治療費を父の遺産から出してしまうと「相続放棄が認められない」可能性が高いでしょう。
ただし、父の遺産から支払ってしまった場合でも相続放棄が認められると考える余地はあります。
相続人は、相続放棄をするまでの間は遺産を管理する責任があります。
例えば、遺産に家があったとして、その家は古く雨漏りをしています。放っておけば「カビが生えたり」「建物の強度が下がったり」するかもしれません。そうならないために、相続人には家の補修をする責任があります。
この責任を「管理責任」といい、この補修を「保存行為」といいます。
話しを戻して、支払期限の過ぎた債務(治療費など)の弁済も、この「保存行為」にあたるという見解があります。
どこまでが保存行為なのかの明確な基準はありません。それは個別に判断していくことになります。明確な答えはないので、この考え方は頭の片隅に知識として持っておいてください。
【本件への当てはめ】
長男は、自分の預金から治療費を支払っています。
相続財産を処分したわけではないので、相続放棄はできます。
3.5 相続放棄は「どこ」の「だれ」にするのか?
相続放棄は「家庭裁判所へ申述しなければ」その効果がありません。
たとえ、督促状の相手に「手紙」や「内容証明郵便」に相続放棄をしたと書いても効果はありません。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述しなければ効果はないのです。
相続放棄したという人に、詳しく話を聞くと、ほかの相続人へ口頭で言っただけというものがあります。これは相続放棄ではありません。
もしも、借金があればそれを引き継いでしまっています。勘違いしている方も多いので気をつけましょう。
3.6 結論!本ケースでは相続放棄をすることはできるのか?
結論としては、長男は相続放棄が認められるでしょう。
長男は、督促状が届いてから3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄をすれば、保証人としてお金を返す必要はなくなります。
いかがでしたでしょうか。相続放棄のイメージをつかめたのではないでしょうか。相続放棄は、意外に奥が深いものです。同じような行動でも、その人の置かれている状況によっては、違った結果になってしまうこともあります。
すでにしてしまった行動は、なかったことにできません。相続放棄を少しで考えているのであれば、相続財産の処分にあたらないように注意して行動しましょう。
4 相続放棄の撤回はできない?
相続放棄すると、あとになって撤回することはできません。
例えば、Aさんが亡くなり、相続人は長男だけだとします(妻はすでに他界しています)。遺産は、次のとおりでした。
- 自宅
- アパート
- 借金 5000万円
アパートの賃料が総額で20万/月。その賃料収入で借金を返すとすると、20年以上かかります。自宅も古く、価値は高くありません。
長男は、相続放棄をすることにしました。
それによって、Aさんの弟が相続人として借入も含めて遺産を引き継ぐことに。
その弟は、自分の収入とアパートの賃料収入から計算した返済計画を立てます。少しでも早く完済するために、「遺産である自宅」は250万円で売ることにしました。買主を探すのは大変でしたが、売れてなによりです。
それから数か月後、「アパートの賃料収入がほしくなった長男」が、やっぱ相続放棄はなかったことにすると言い出しました。
このような状況で相続放棄の撤回が認められてしまうと、弟としてはたまったものではありません。それを阻止するために、相続放棄の撤回は認められていないのです。
しかし、詐欺や強迫により相続放棄をムリやりさせられた相続人については、家庭裁判所へ相続放棄の「取消し」をすることはできます。
「撤回」と「取消」は効果は似ていますが法的には分けて考えています。これも注意が必要ですね。
5 まとめ
「相続人は、かならず相続をしなければいけない」。このような決まりは、もちろんありません。
マイナスの財産が、プラスの財産を上回っているケースでは相続放棄という選択肢を考えてみるのもいいのではないでしょうか。
相続放棄は、強力な効果がある一方で、厳しいルールもあります。このページを何度も見て、イメージをつかんでください。イメージさえ持てれば道がひらけます。効果的な相続放棄をされることを祈っております。