女優の松島トモ子さんも追い詰められた老老介護の実態とその対応策
「これが、わたし??」
女優の松島トモ子さんが、母の介護をする中で化粧をする余裕もなくなり、ふとした瞬間に自分自身の姿を鏡で見たときに頭をよぎった言葉です。
穏やかだった母が(レビー小体型)認知症になってから、生活が一変したと話す松島トモ子さん。
母は別人のようになり、これまで口にしたことがないような汚い言葉を使い、時には松島さんに対しイスなどの家具を投げつけることも。さらには実際にはないものが見える幻覚症状にも襲われ、その介護生活は壮絶だったといいます。
松島トモ子さんも今年で74歳。ひと昔前ではあれば介護を受けていてもおかしくない年齢ですが、今ではこのように高齢者が高齢者を介護する風景も珍しいものではなくなってきました。私たちにとっても他人事ではありません。いつ自分に訪れてもおかしくない老老介護の実態とその対応策を、今回はご紹介したいと思います。
1 老老介護・認認介護とは?
老老介護とは、(65歳以上の)高齢者が(65歳以上の)高齢者を介護することです。少子高齢化や核家族化が進み、老老介護が珍しいことではなくなりました。以前のように息子夫婦と同居することが当たり前であった時代には見られなかった光景です。
そして、もうひとつの社会問題が「認認介護」です。以前、このような相談を受けました。
相談者は「Aさん」。県外に住んでいる両親のことで悩みを抱えていました。
Aさんによれば昨年までは「母」がひとりで、「軽度の認知症を患っていた父」の介護をしていました。しかし、その母がアルツハイマー型認知症にかかり、「父」以上に社会生活が難しくなってしまったというのです。
それからは「認知症を患っている父」が、母の面倒をみています。一人で外出することも難しかったその父が、杖をつきながら買い物に行っています。
父もひとりでの介護に限界を感じています。週に一度来てもらっているヘルパーさんの訪問頻度を増やしたいところですが、母がそれを許さないそうです。
「自分たちだけで十分に生活はできている。なぜ頼む必要があるんだ」
と母は言い、ヘルパーの協力を拒もうとしています。どうすればいいのでしょうか。このような相談でした。
このような状態を「認認介護」といいます。「認知証の高齢者」が「認知症の高齢者」を介護する状態のことです。これも老老介護と同じで社会問題になっています。
高齢者の介護をするうえで、認知症の理解は不可欠です。認知症になると「なぜそのような行動を取るのか」「なぜそのような言葉を口にするのか」「なぜそのように考えるのか」といったプロセスを知ることは、超高齢化社会を生きる私たちにとって損になることはありません。ぜひあなたにも知ってもらいたいと思います。
2 老老介護が増えた原因
なぜ「老老介護」や「認認介護」が増えてきたのでしょうか。それは平均寿命が延びたことが原因です。もっと正確に言うのなら「平均寿命」の延びに対して「健康寿命」が追いついていないことです。健康寿命とは、人の手を借りずに自分ひとり日常生活を送れる期間のことです。
亡くなる瞬間まで元気に生活を送れるのであれば、それに越したことはありませんが、そのような方は多くないでしょう。
年を重ねれば、若いころとは違って体の自由もきかなくなり介助が必要となりますし、複雑な会話を聞いても一度では理解できなくなります。また、認知症などで判断能力がなくなれば日常会話ですら難しくなってきます。
このように介護を必要とする期間を経て人生を終える方が圧倒的に多いのではないでしょうか。この介護を必要とする期間を「要介護期間」と言い、要介護期間は次のような式で表すことができます。
要介護期間 = 平均寿命 - 健康寿命
この「要介護期間が長くなったこと」と「核家族化が進んだこと」が原因で老老介護や認認介護が増えてきてしまったのです。
3 「老老介護」や「認認介護」の問題点
「これの何が問題なの?」
老老介護や認認介護の問題について詳しく見ていきましょう。
3.1 老老介護の問題点
介護を経験したことがある方なら、わかると思いますが「トイレ」や「お風呂」「リハビリ」などのサポートは、「若くて元気な男性」でも大変な作業です。
それを高齢者が行うとなれば、容易にその大変さが想像できるでしょう。筋力が衰えれた高齢者が、介護をすると若い人より時間がかかります。サポートをする方が大変なのは当たり前として、サポートを受ける側もそれ相応の負担を強いられることになります。
介護に追われれば精神的な余裕もなくなってきます。介護に集中するあまり、目の前の介護以外のことは考えることができず、そしてそれまでの交友関係も失っていきます。
「それなら、たまには気分転換のために外出したほうがいいよ」
このような発言を聞きますが、そんな時間と心の余裕はありません。そして、社会との接点も少なくなり、精神的にも追い込まれて、共倒れのリスクをはらんでいるのが、この老々介護の怖いところです。
3.2 認認介護の問題点
介護にとって大切なことは「日常の食事や排せつ」、「必要な薬の服用」、「適切な運動」を本人にとってもらうことです。
介護する側も認知症になると、この管理が適切に行うのは難しいでしょう。
- 食事をあげたか、思い出せない
- 薬を飲ませたか、思い出せない
- トイレに行かせたか、思い出せない
- 通院日を忘れ、診察に行けない
次に問題になるのがお金の管理です。私たちの生活とお金は切っても切り離せない関係です。日用品を買うにしても、介護サービスを受けるにしてもお金が必要です。
- 光熱費の支払いを忘れる
- 家賃の支払いを忘れる
- キャッシュカードの暗証番号を忘れる
- 銀行までの生き方がわからず、お金を引き出せない
これでは生活になりません。そして怖いのが、どこからともなく詐欺師が近づいてくることです。認知症高齢者を狙った詐欺は後を絶ちません。弱っている心に巧みに近づき、お金を巻き上げようとしてきます。
火の不始末による火災も気を付けなければなりません。「コンロに火をつけたまま、他の作業しているうちにコンロの火を忘れ、火事になってしまう」これもよく聞く話です。
これらが認認介護のリスクです。
4 対策|どのようにすればいいのか?
「老老介護」や「認認介護」は、知らず知らずのうちに社会との接点がなくなり、孤独に追い込まれていきます。誰にも相談できずに一人で「問題」や「悩み」を抱え込もうとします。そして、さらに孤独になっていくという負の連鎖が起こります。
これまで紹介した問題点を解決するためには、一人で悩まない環境を作り出すことが最も大切です。家族に相談できる方がいれば、迷わずに相談してください。
「子供たちには迷惑をかけたくない」
このように話す方がいます。これは明らかに間違った考え方です。相談しても助けとなる行動を起こしてくれるかはわかりませんが、一つ言えることは、親身になって話を聞いてくれることは間違いありません。一人で介護の大変さや苦悩を抱えている現状とは違った世界が見えてくるはずです。
一人で抱え込まずに相談できる環境を作ることを忘れないようにしましょう。
そしてもう一つの解決策が成年後見制度です。成年後見制度は、判断能力の下がった本人が生活しやすい環境を整えるために、本人と二人三脚で進んでいきます。
成年後見人というサポーターが付き本人の支援にあたります。金銭の管理はもちろん、あなたに合った介護サービスも一緒に考えてくれます。
5 まとめ
誰にも迷惑をかけずに自分たちの手で何とかしようという気持ちを強く持っている方の中には「自分と配偶者の人生」を自分の手で終わらせてしまうという最悪の選択肢を選んでしまう方もいます。
介護の問題は、かんたんに解決できる問題ではなく、具体的な解決策がないことのが多いのが現状でしょう。
しかし、私は答えを見つけるために考え続けたいと思っています。一人で悩まずにお気軽にご相談ください。