成年被後見人が相続人になったら確認しないとまずい「遺族年金」
亡くなった方によって生活を維持されていた家族に支払われる「遺族年金」。
そして、遺族年金をもらえない方を支援する目的で作られた「寡婦年金」や「死亡一時金」。
あなたが成年後見人としてサポートしている本人について、もしも「遺族年金」を受け取れるのにもかかわらず、後見人の落ち度によってその手続きを忘れ、「本人の使えるお金」が減ってしまったのであれば、それは後見人として失格です。
本人の生活を支える立場である成年後見人が、逆に「本人の生活」を無駄に厳しい状況に追い込んでしまっては本末転倒です。
そこで今回は、そうならないために「遺族年金」「寡婦年金」「死亡一時金」について解説したいと思います。
1 遺族年金は「二つ」ある
遺族年金とは、「残された家族」に支払われるお金のことです。
たとえば、年金をもらっている夫婦がいたとします。年金額は、「旦那さんが毎月14万円」で「奥さんが毎月6万円」です。このとき「ふたりの生活費」の支払いは、厳密に「どちらの支払いなのか」を区別することなく、年金の合計額(20万円)から無作為に支払う家庭が多いのではないでしょうか。
「毎月の食費がこれくらいで、病院代と薬代がこれくらいだから、今月はこれくらいお金が残るな。じゃあ、来月は残ったお金で千葉に旅行でも行こうかしら」
このときあなたは、旦那さんとの「年金の合計額」をもとに電卓をはじいているのではないでしょうか。夫婦の生活費の支払いについて、
「夫のほうがたくさん食べているんだから、夫が多く生活費を支払うべきだ」
と主張する人は少数派で、夫婦を長年つづけているとサイフは「二人でひとつ」で、「わたしのお金はわたし」「あなたのお金はあなた」という方は多くありません。
そんな中、突然、旦那さんが亡くなり、それによって使えるお金が少なくなってしまっては、普段の生活も厳しくなる家庭もあるでしょう。
そこで、残された家族が生活に困らないように「遺族年金」が誕生しました。そして、この例からも分かるように、遺族年金を受け取れる遺族とは「亡くなった方と生計をともにしていた方」です。
では遺族年金を詳しく見ていきましょう。遺族年金には次の二つがあります。
- 遺族基礎年金
- 遺族厚生年金
人によっては「両方の遺族年金」をもらえる人もいます。
1.1 遺族基礎年金
「遺族基礎年金」とは、国民年金に加入している人が亡くなった場合に、その遺族に支払われる年金のことです。
「18歳未満の子供」を育てている「妻」が受け取ることができます。平成26年4月以降に亡くなったケースでは「夫」も受け取ることができます。現在では「妻」と「夫」、どちらでも受け取れるということですね。
ポイントは「18歳未満の子供」を育てているかどうかです。
これに対し、このあとに紹介する「遺族厚生年金」には「18歳未満の子供」を育てているという条件はありません。
【受給条件】
次のいずれかの条件を満たしていること
- 国民年金に加入していること ※1、2
- 老齢基礎年金の受給資格を満たしていること
- 遺族の前年の収入が850万円未満または所得が655万5000円未満であること ※3
※1 保険料の納付済み期間が加入期間の3分の2以上あること(免除期間も含む)。
※2 亡くなった方が65歳未満の場合は死亡日の前々月までの1年間の保険料の滞納がないこと(平成38年4月1日まで)。
※3 これ以上の収入があると死亡した人によって生計を維持されていたとはみなされません。
【もらえる人】
- 18歳未満の子供がいる配偶者(妻または夫)
または
- 18歳未満の子供
- 20歳未満で障害1級または2級に認定されている子供
【支給期間】
- 子供が18歳になる年の年度末(3月末日)まで
1.2 遺族厚生年金
「遺族厚生年金」は、厚生年金に加入していた人が亡くなったときに、その遺族に支払われるお金です。
遺族基礎年金との違いは「18歳未満の子供」がいなくても受け取れることです。受け取れる対象も遺族基礎年金よりも広くなります。父母や祖父母、孫なども加わります。
【受給条件】
次のいずれかの条件を満たしていること
- 厚生年金に加入していること ※1、2
- 厚生年金の加入中の傷病が原因で5年以内に亡くなったとき(期間は初診日から計算する)
- 1級または2級の障害厚生年金を受けていたとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たしていること
※1 保険料の納付済み期間が加入期間の3分の2以上あること(免除期間も含む)。
※2 亡くなった方が65歳未満の場合は死亡日の前々月までの1年間の保険料の滞納がないこと(平成38年4月1日まで)。
【もらえる人】
- 妻
- 子供
- 孫
- 夫(55歳以上)
- 父母(55歳以上)
- 祖父母(55歳以上)
※ 遺族年金の受給は優先順位があり、こちらに列挙したみんながもらえるわけではありません。
【支給期間】
- 妻 : 一生涯
- 夫・父母・祖父母 : 60歳から一生涯
※ 30歳未満の妻が受給する場合は5年間しかもらえません。
2 遺族年金が受け取れない方の味方|寡婦年金とは
寡婦年金とは、遺族年金の補充的な位置づけです。「遺族基礎年金」も「遺族厚生年金」も受け取れない場合に、妻の生活を維持するために支払われるお金です。
夫が国民年金を一生懸命、支払っていたのに「本人」も「妻」も1円もらえないというのは、流石(さすが)にかわいそうですよね。「保険料を払うだけで何も受け取れなかった」という掛け捨てにならないように作られました。
【受給条件】
- 国民年金「のみ」に加入していたこと
- 18歳未満の子供がいないこと
- 保険料を納めた期間が10年以上あること ※1
- 夫と10年以上継続して婚姻関係にあること
- 夫が障害基礎年金の受給権者でないこと
- 夫が老齢基礎年金を受けたことがないこと
※1 平成29年8月1日より前に死亡した場合は25年以上納めていた必要があります
【もらえる人】
- 妻
※ ただし、妻が繰り上げ支給の老齢基礎年金を受けている場合はもらえません。
【支給期間】
- 60歳~65歳まで
3 一度だけ受け取れる年金死亡一時金
この死亡一時金も、寡婦年金と同じように年金が掛け捨てにならないように作られたものなので、亡くなった方が年金(老齢基礎年金・障害基礎年金)をもらっていた場合は、受け取ることができません。
【受給条件】
- 遺族基礎年金の受給要件を満たしていないこと
- 亡くなった方が、36月以上保険料を納めていたこと
- 受け取る人が、亡くなった人によって生活を維持されていたこと
- 寡婦年金を受け取らないこと
【もらえる人】
- 配偶者(妻または夫)
- 子供
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
※ 上記の順番でもらうことになります。先順位者がいれば後順位者はもらえません。
【支給額】
( 保険料納付期間 ) ( 金額 )
36月以上180月未満 12万円
180月以上240月未満 14万5000円
240月以上300月未満 17万円
300月以上360月未満 22万円
360月以上420月未満 27万円
420月以上 32万円
【支給期間】
- 一回
寡婦年金と死亡一時金は、いずれか一方しか受け取ることができませんので、どちらを選択することがいいのかケースに合わせて選ぶことになります。
3 まとめ
いかがでしたでしょうか。
成年被後見人(本人)が相続人になるケースでは、遺族年金を受け取れるかどうか確認しましょう。遺族年金が難しいようなら次に「寡婦年金」や「死亡一時金」が受け取れるかどうかを検討します。
成年後見人は、本人が不利益を受けないようにサポートするのが仕事です。支援者である後見人が手続きを忘れて本人が苦しい状態になってしまったのでは、笑い話にもなりません。国や自治体の用意しいる制度や助成金が使えるかどうかにも注意を払い後見事務を進めるようにしましょう。