換価分割をした土地や家の現状!後悔しないために忘れてはいけない視点!
換価分割は、使い勝手がいい便利な遺産分割です。
換価分割のメリットやデメリットを紹介する記事も多く見かけます。
しかし、この換価分割を選んだことで、いつの間にか争いに巻き込まれてしまったケースもあります。
そこで、今回は「この争いに巻き込まれてしまったケースのご紹介」と「換価分割においてメリットやデメリットよりも先に考えてほしい視点」をご紹介します。
目次
1 換価分割で忘れてはいけない視点
『不動産はすぐに売れるとは限らない』
これが換価分割をするうえで、忘れないでほしい視点です。
「遺産分割が終わって相続登記を済ませて、これで一安心」
普通はこのように思いますよね。しかし換価分割は違います。極端に言ってしまえば、協議が終わってからが「本番」です。
あなたにも、この視点を持ってもらうために、換価分割をしたことによって大変な目にあってしまった事例をふたつ紹介します。
1.1 換価分割|当事者がそろって他界してしまったケース
「おと総合事務所」へ相談に来たA(40歳・男性)さん。
相談者の「おじいさん名義」の不動産について、換価分割をしたことが問題になっていた相談事例です。
当時、おじいさんの相続人は、その「長男」と「二男(Aの父)」の2人でした。
長男と二男は「遺産である不動産」を売却し、その売却代金を平等に分けるとの内容の遺産分割協議を結びました。
「ふたりの共有名義」で相続登記も済ませました。
しかし、千葉県にあるその不動産を売りに出しましたが、買い手が見つかりません。
そのまま10年以上の歳月が流れました。その長男も68歳になっています。不動産のことも頭からなくなっていました。
そして、不動産が売れないまま、病気に倒れ「長男」は息を引き取ってしまいました。
それから1年後、「二男」が追いかけるように他界。
遺産分割をした「当事者ふたり」は、ともにこの世からいなくなってしまいました。
長男の相続人は、その子供たち3人。
二男の相続人は、その妻と子供(相談者A)の2人でした。
A(二男の子)は、下の世代に負担をかけたくないとの思いから、不動産の買い手を探しつづけました。
交通の便も悪く、近くに買い物に行けるスーパーもありません。それでも諦めずに、情報を集めた結果、買ってもいいという人を見つけることができました。
値段は、当初予定していた金額の半額程度でしたが、背に腹は代えられません。
Aは、売買契約に向けて行動に移します。
しかし、「長男の子供たち」が協力をしてくれません。
それどころか、Aが何の相談もなく勝手に不動産の売却手続きをしていると怒りをあらわにしています。
「長男の子供たち」は、換価分割について長男から何も話しを聞いていなかったのです。
これでは、もめてしまうのは当たり前です。Aは何度も説得しましたが、取り合ってくれません。遺産分割協議書があればよかったのですが、Aはそれを持っていませんでした。
それから4か月後、最終的には古い戸籍と一緒に遺産分割協議書が見つかり、長男の子供たちとともに売却をすることができましたが、すっきりはしません。
「長男の子供たち」は、快く協力してくれたというより負の感情を持ったまま、いやいや協力してくれたといった表現がしっくりきます。
証拠があるから仕方ないけど、もっと自分たちが納得できる段取りがあっただろうと言わんばかりです。
Aの好意は完全に裏目に出てしまいました。
1.2 換価分割|代表で単独名義にした相続人が他界したケース
次に紹介する事例も、遺産分割の話し合いをした当事者の一人が亡くなってしまい、換価分割がスムーズに進まなくなってしまったケースです。
被相続人に子供がいませんでした。相続人は、被相続人の「兄弟」や「姉妹」です。
「弟が2人」と「姉と妹が各1人」の4人が相続人です。
不動産を共有名義にしてしまうと、そのあとの売却の手続きは「相続人みんな」が足並みを揃え、協力しないと進められません。
「姉」と「妹」は県外に住んでおり、頻繁に足を運ぶことは難しい状況にあります。
そこで、不動産の名義を「弟1人の単独名義」にして登記をしました。この弟を以後「X」と呼びます。
こちらも上記のケースと同じように、買主が見つかりません。そして、遺産分割から3年後、名義人である弟Xが死んでしまいました。
Xには娘がいましたが、すでに他界しているので「孫」が代襲相続人として相続を受けました。
この孫を以後、「Y」と呼びます。
『不動産が売れる気配がないため、相続人たちは改めて話し合いの場を設けることに』
Yは換価分割について何も話を聞いていませんでした。
Yとしては、なぜ祖父から相続した不動産を売って、その代金を親戚に分配したないといけないのか納得ができません。
「不動産を売却するかどうかは、自分で決める」
「もし売却したとしても、その代金は自分のものだ」
とYは言います。
相続不動産の名義人である「Y」が、協力して動いてくれなければ換価分割は進みません。
どうしても、話し合いが進まないXの兄妹は、不本意ながら調停に話の場を移して、Yを説得することにしました。
その結果、Yは渋々ではありますが、換価分割することに理解を示してくれました。
しかし、一度できた溝は埋まることはなく、お互いに不信感は消えていません。
1.3 対策|どうすれば良かったのか?
不動産は、すぐに売れるとは限りません。
売れるまで時間がかかると思ったほうがいいです。
「自分の代」で決着をつけ「下の世代」には負担をかけないと思うのは大切です。
しかし、売れなかった場合のことも考え、換価分割をした際には、下の世代に対して説明をすることを忘れてはいけません。
そして、その証拠になる遺産分割協議書も引き継げる体制をとっておきましょう。
2 換価分割をするなら、売れる「土地」や「家」かを確認する
土地や家が「いつ」売れるのかは誰にもわかりません。
すぐに売れるかもしれませんし、何年も売れないかもしれません。
不動産取引は「縁」です。
これをコントロールすることは難しいでしょう。
ただし、ひとつだけ確実にわかっていることがあります。
それは、一定の基準を満たしていない不動産は、売れないということです。
2.1 法律の制限
ここでは「土地」に限定してお話しします。
どんな目的で土地を買う人が多いと思いますか?
それは、
「家を建てるため」
これではないでしょうか。
もしも、家を建てることができない土地だったら、買ってくれる人は見つからないでしょう。
家を建てる基準としてよく知られているのが、
- 建ぺい率
- 容積率
- 高さ制限と斜線制限
- 防火規制
これらが有名ですね。
しかし、特に気を付けるポイントは「土地が道路に接しているかどうか」です。
幅員4メートル以上の道路に土地が2メートル以上、接していなければ家を建てることができません。家を建てることができない土地であれば、遺産分割の方法も再度、検討したほうがいいでしょう。
家が建てられなくても買ってくれる見込みがある特殊なケースであれば換価分割でも問題ありません。
2.2 不動産の権利関係は大丈夫?
相続人への「相続登記」もしなければ、不動産を売ることはできません。
不動産の名義は、亡くなった方から相続人へ変わっていますか?
変わっていなければ、すぐに相続登記をしましょう。
そして、「不動産の登記事項」に次のような記載はありませんか。
- 賃借権の仮登記
- 地上権
- (根)抵当権
これらが付いている不動産は売れません。速やかに消す手続きをしましょう。時間が経てば経つほど、古ければ古いほど、登記を抹消するのは大変になります。
3 換価分割が力を発揮する局面
これまで換価分割の注意点を説明させてもらいました。
しかし、換価分割が使い勝手がいい遺産分割であることは変わりません。
そこで、換価分割が大きな力を発揮するケースを3つご紹介します。
3.1 相続財産の数が少なく平等に分けることができない
わかりやすいのは、相続財産が「不動産」しかないようなケースです。
他に遺産があっても、不動産の価格に比べると圧倒的に価値が低い場合も同じです。
このようなケースでは、平等に分けることができず「一部の相続人だけが得をする」ような結果になってしまいます。
それでは、相続人たちの間で不満だけが残ってしまいます。
したがって、遺産に不動産しかないようなケースでは、不動産を売ってその売却代金を公平に分けることができる換価分割は、相続人たちにとって大きな力になってくれるでしょう。
3.2 代償分割をしたいが「代償金」が払えない
- 『きれいに分けることができず、ひとりの相続人が単独で相続して、その相続人が他の相続人へお金を払う代償分割をしたい』
- 『でも、代償金を払うことができる相続人がひとりもいない』
このようなケースでも換価分割の出番です。
換価分割は、遺産を売って、その代金を相続人たちで分けるので「各相続人の経済力」は関係ありません。
3.3 誰も使わない不動産がある
このケースも換価分割のメリットが生きるでしょう。
たとえば、相続人の誰もが住んでいないような地域に相続不動産があるようなケースでは、安くても売ってしまって、お金を分けたほうがいいような場合もあります。
4 まとめ
換価分割は、優れた遺産分割の方法です。
相続人たちで話がまとまらないケースでも、換価分割を使うことによって、あっさりと解決してしまう展開も少なくありません。
しかし、高額な不動産はすぐに売れるとは限りません。
何年も売れずに不動産が残ってしまうケースもあるでしょう。相続人たちが亡くなった後に売れるケースもあるでしょう。
そんなときでも、下の世代が困惑しないように、子供たちにきちんとした引き継ぎをする姿勢を忘れないでください。