兄弟でモメないために遺産分割の前に知ってほしい事&分割の方法や種類まとめ
「遺産を相続したけど、どう分ければいいんだろう」
このような状態でも相続人は、とりあえず遺産分割をしようとします。そして、よくわからないまま自分の欲望にだけしたがって、
- この土地は、わたしが相続する
- この車は、俺が相続する
- この家は、僕が相続する
と主張し合い、これまで仲の良かった「兄弟」や「姉妹」で争いが起きてしまいます。そして一度入ると抜け出せない「争いの渦の中」へ、自ら望んでいるかのように引きずり込まれていくのです。
争いが起きると、解決したとしても元の関係に戻ることはありません。解決したように見えても、一度できた心の溝が埋まることはないのです。そうならないためにも、遺産分割をする前に知ってもらいたいことがあります。
そこで、今回は「遺産分割の前に知ってほしいこと」をご紹介し、そのあとに遺産分割の「意味」や「どのような分割方法」があるのかを解説したいと思います。
目次
1 遺産分割協議をする前に知ってもらいたいこと
実際に遺産分割協議をする前に、あなたに質問をしたと思います。遺産をどのように分けるのが正しいと思いますか?
- 長男がすべて相続する
- 配偶者がすべて相続する
- 相続人みんなが同じになるように均等に分ける
どれも間違いではありませんが、唯一無二の答えでもありません。答えは、人によって違っていいのです。まずこれを忘れないでください。
あなたも「法定相続分」という言葉を聞いたことがあるでしょう。いろいろな情報を集めていると、一度は目にすると思います。情報を集めることは大切なことです。しかし、その情報に固執してしまうのもよくありません。
法定相続分を知ると次のような考えになってしまう人がいます。
- 「法定相続分どおりに分けないといけない」
- 「法定相続分どおりに分けるべきだ」
でも待ってください。法定相続分とは、あくまで遺産分割をする際の目安です。
- 話し合いがまとまらない場合
- 基準がないと、どう話し合っていいのかわからない場合
などに使うためのものです。例えば、両親の介護に励(はげ)んでくれていた長女がいたとします。それに感謝している他の兄弟たちは、
「その長女に遺産をすべて相続してもらいたい」
と考えています。そうであれば法定相続分にこだわらず、その内容で遺産分割協議をすればいいのです。
遺産をどう分けるのかは「家庭の事情」や「各相続人の置かれている状況」によって変わってきます。他の家庭がどのように遺産を分けたのかは重要ではありません。
大切なことは、「あなた」と「他の相続人」がどのように分けたのかという「想い」です。
遺産分割をする前に、このことをよく考えてみましょう。遺産分割の「方法」や「テクニック」はその後でいいのです。
2 遺産分割の本当の意味とは?
「遺産分割」は何のためにするのでしょうか。遺産分割の「本当の意味」を知っている人は多くありません。この質問が難しければ、逆に遺産分割をしないとどうなると思いますか。
- 遺産を相続できない
- 被相続人(故人)の所有のままになってしまう
- 家や車などの遺産を使うことができない
このように思ってしまう方がいます。どれも間違いです。遺産分割とは「共有状態を解消するための手段」です。
相続がはじまると、遺産は「相続人みんな」の共有になります。自動的に共有になってしまうのです。
そして、この共有状態は望ましいことではありません。
例えば、誰も使っていない車が相続財産としてあるとしましょう。
遺産分割をせずに、これを売るためには「相続人みんな」の同意が必要になってしまいます。一人でも反対すれば、車を売ることはできません。
相続人全員で遺産を共有しているということは、何をするにしても「相続人みんな」で話し合いの場を設け、一致団結する必要があるわけです。
ですので、ひとりでも反対する相続人がいれば物事は進みません。円滑な取引を阻害してしまうこの状態を早期に解決する方法が必要になってきます。
そこで「法」は遺産の共有状態を解消する手段として、遺産分割協議を考え出したのです。
では次に具体的にどのような遺産分割方法があるのか見ていきましょう。
3 遺産分割の「種類」と「方法」
遺産分割には、次の3つの分け方があります。
- 現物分割
- 換価分割
- 代償分割
あなたにあった分割方法を見つけましょう。では、さっそく行きます。それぞれの特徴やメリット・デメリットを見ていきましょう。
4 現物分割の「特徴」&「メリット・デメリット」
現物分割とは、遺産を「そのままの状態」で相続人が取得する方法です。言葉だけだとわかりにくいので例を出します。
遺 産 : 土地A・建物B・預金C
相続人 : 長男・二男・長女
このような相続で、次のような遺産分割協議をしました。
- 長男が土地A
- 二男が建物B
- 長女が預金C
をそれぞれが相続する。これが「現物分割」です。
遺産分割において、もっともポピュラーでもっとも活躍する分割方法です。相続において中心的な役割を担(にな)う分割方法と言っていいでしょう。
4.1 現物分割のメリット
現物分割のメリットは、その「わかりやすさ」と「手軽さ」です。
- 遺産(たとえば不動産)を売却する必要がない
- 話し合いが終われば、すぐに遺産を手に入れることができる
- 一部の相続人が代償金を払う必要がない
共有にならないので、遺産を相続したあとは「自分ひとりの判断」で自由にできます。
- 売るもよし
- 貸すもの自由
- そのまま持ち続けることもできる
これが現物分割のメリットです。
4.2 現物分割のデメリット
現物分割のデメリットは、柔軟性に欠けることから公平に分配することが難しいところです。現物分割は、そのままの状態で遺産を分けることになります。
遺産が「預貯金だけ」といったケースでは、「相続人みんな」で平等に分けることもできますが、そのようなケースは少ないでしょう。
例えば、
遺 産 : 自宅(土地・家) 3000万円
預金 400万円
相続人 : 長男・長女
だとしましょう。そして「長男が自宅を相続し」「長女が預金を相続する」といった遺産分割をしました。
すると、どうなるでしょうか。長男と長女が相続した、「それぞれの遺産の価値」を比べてみると「2600万円」ものひらきが出てしまいます。
このように、現物分割は柔軟性がなく、相続人たちが平等に分けることが難しいのです。
4.3 現物分割が向いている「ケース」or「人」
次のようなケースでは現物分割を取り入れるといいでしょう。
- 同価値の遺産が複数ある
- 相続財産の大半を現金が占めている
- 一部の相続人が「多くの遺産」を取得することに他の相続人が納得している
現物を「そのままの状態」で分けても公平にできるようなケースや不平等な分け方になっても相続人みんなの了承が得られるケースでは現物分割が向いているでしょう。
5 換価分割の「特徴」&「メリット・デメリット」
換価分割とは「遺産」を売却し、その代金を「相続人みんな」で分ける分割方法です。
例えば、
相続人 : 長男・二男
の相続があったとします。相続財産である土地を「長男」か「二男」のどちらかが相続すると、もう一方が納得できません。
そこで土地を売却し、その売却代金4000万円を「長男」と「二男」が2000万円ずつ相続することにしました。これが換価分割です。
不動産が遺産の大半を占めているようケースでは、換価分割を検討してみるといいでしょう。
5.1 換価分割のメリット
換価分割のメリットは、何といっても相続人全員で平等に遺産を分けることができることでしょう。遺産相続でモメてしまう原因は、相続人たちが抱いてしまう「不平等感」です。
不動産のように価格が大きくなってしまう遺産があると、それを相続した相続人だけが「得」をし、自分は「損」をしたように思えてしまいます。
- あいつが、遺産のほとんどを相続した。
- わたしは、少ししか相続できなかった。
- 不平等だ
このように考えがちです。遺産を「そのままの状態」で分割してしまえば、このような不満を口にする相続人が出てくることがあります。これを解決する遺産分割の方法が「換価分割」です。
遺産を売却し、その代金を「相続人みんな」で平等に分けるといった換価分割を行うことで、この不満を解消することが期待できます。
さらに土地や建物などの固定資産は、なんの手入れもせずに放置すれば、土地は荒れ、建物は老朽化(ろうきゅうか)が進んでしまいます。それを予防し、不動産を綺麗な状態で保つのは想像以上に時間と労力を使います。そして、固定資産税という税金を支払うことになります。
換価分割を選びその不動産を売却してしまえば、これらのデメリットからも解放されるのです。
5.2 換価分割のデメリット
換価分割のデメリットは、その遺産を手放さなくてはいけないことです。遺産には、「故人にとっても」「相続人にとっても」多くの思い出が詰まっていることでしょう。その思い出の詰まった遺産を手放し、他人に譲ることになるのがデメリットです。
他にも、
- 譲渡所得税がかかる
- 売却に「時間」と「手間」がかかる
- 仲介業者を使えば仲介手数料が発生する
などのデメリットがあります。
5.3 換価分割が向いている「ケース」or「人」
次のようなケースでは大きな力を発揮します。
- 遺産に不動産しかない
- 遺産の大半を不動産が占めている
現物を「そのままの状態」で分けてしまうと、不平等になってしまい、それでは各相続人の合意を得られないといった場合に換価分割が向いているでしょう。
6 代償分割の「特徴」&「メリット・デメリット」
代償分割とは、遺産を「ひとりの相続人」が相続し、その代わりに自分の財布から他の相続人へお金(代償金)を支払う分割方法です。こちらもわかりにくいと思うので例を出します。
相続人 : 長男・二男
「長男」が自宅を相続し、「二男」が何も相続できなくなれば、二男としては面白くありません。そんな遺産分割には納得できません。
そこで、「長男が自宅を相続し、その代わりに長男は二男に対して1000万円を支払う」という内容で話し合いが決着しました。これが代償分割です。
6.1 代償分割のメリット
代償分割のメリットは、(結果的に)相続人間で公平に遺産を分割できることです。
例えば、遺産が土地だけで、相続人が「長男」と「長女」のふたりだとします。土地の価格は2000万円です。
長男が土地を相続し、その代わりに自分の懐(ふところ)から長女へ1000万円を支払うとの代償分割をしたとしましょう。
現物分割と異なり、長男から長女へ1000万円を支払うことによって、相続人間で公平性を保つことができます。これが代償分割のメリットです。そして換価分割と違い、不動産を売却するといった手間もかかりません。
つまりは、
- 譲渡所得税がかからない
- 売却にかかる「時間」と「手間」がない
- 仲介手数料がいらない
といったメリットがあります。
6.2 代償分割のデメリット
代償分割のデメリットは、代償金を支払うお金を用意しなければいけないところです。
先の例のように、土地を「長男が相続する」代わりに、「長男」が「長女」へ1000万円を支払うという遺産分割を結んだとしても、長男に1000万円を支払う資力がなければ意味がありません。
公平に分けることができ、換価分割のような売却の手間がない代償分割ですが、代償金を支払える相続人がいなければ、この方法は使えないことがデメリットです。
6.3 代償分割が向いているケースor人
次のようなケースでは代償分割を検討してみましょう。
- 現物分割をすると不平等になってしまう
- 不動産を売却することが難しい
- 想いでの詰まった実家を売りたくない
- 代償金を支払える相続人がいる
これらに当てはまれば、代償分割はあなたの力強い味方になってくれるでしょう。
7 どの遺産分割を使えばいいのか?
3つの遺産分割の方法について紹介してきました。これらに優劣はありません。場合によっては換価分割がいいかもしれませんし、また違うケースでは代償分割がいいかもしれません。
相続人の置かれている状況によって使い分けるのが賢い選択です。時には、組み合わせて使うのも効果的でしょう。
8 遺産分割に参加する人
遺産分割は相続人全員が参加しないと無効になってしまいます。これを知っている方は多いでしょう。でも、ここに大きな落とし穴があります。
わかりやすいように例を出してお話します。次のような相続があったとします。
被相続人(故人) : 父
相続人 : 長女 と 二女
※そして「長女」と「二女」で遺産分割をした。
ここでひとつ問題を出します。この遺産分割が無効になってしまうケースはあるでしょうか。相続人はこのふたりだけですよ。
※隠し子がいたなどのひっかけはありません。
「相続人は長女と二女だけ。そのふたりが遺産分割をしているのだから有効に決まっている」
あなたも、こう考えたのではないでしょうか。実はそうとも言えないのです。答えは、無効になるケースがあります。
「なぜ・・・」
それは次のような人がいれば、その人も遺産分割に加えなければいけないからです。
- 包括受遺者
- 相続分の譲渡を受けた人
これらを仲間はずれにした遺産分割協議は無効です。詳しく見ていきましょう。
8.1 包括受遺者
包括受遺者とは、包括遺贈を受けた人です。
包括遺贈とは、
遺言書に「遺産の全部をあげる」または「遺産の2分の1(割合は自由)をあげる」と書くことです。
包括受遺者について、次のようなルールがあります。
【民法】
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する
簡単にいうと、包括受遺者は「相続人と同じように扱ってね」ということです。包括受遺者は相続人と同一視されるので遺産分割に参加しなければなりません。
8.2 相続分の譲渡を受けた方
法定相続分を覚えていますか。さっきも出てきましたね。
遺産分割協議の目安につかう取り分で、遺産分割をしなければ「この割合(法定相続分)」で相続することになるのでしたね。
そして、この相続分は、第三者へ「売ったり」「あげたり」することができます。
相続人以外の人に、相続分を売ってしまうと、その相続分を買った人も遺産分割に参加することになります。
9 遺産分割協議の5つのステップ
遺産分割をするまでの流れを見ていきましょう。
これが唯一の正解というわけではありませんので、あなたの進めやすい順番を見つけるまでの参考とお考え下さい。
9.1 遺言書の探そう【STEP1】
まず被相続人が遺言書を残していないか探しましょう。
被相続人の家をくまなく探します。被相続の「部屋」や「寝室のタンス」、「机の中」を隅々まで目を通します。
「遺言書を公正証書」で作っていれば、公証役場に記録が残っています。
家を探索したあとは、公証役場へ遺言書があるかどうか問い合わせをしてみましょう。
遺言書が出てくれば、その内容で相続することになるので、遺産分割協議は必要ありません。
9.2 相続人を確定する【STEP2】
相続財産をどのように分けるのかを決める遺産分割協議は、相続人みんなで話し合う必要があります。
一部の相続人を除外した遺産分割は無効です。
誰が相続人なのか、戸籍や住民票を集めて確認しましょう。
そして忘れてはいけない人が、先ほど説明した「包括受遺者」と「相続分の譲受人」です。
もちろん、この者たちを除外して遺産分割協議をすることはできません。
9.3 相続財産を調べる【STEP3】
相続財産がわからなければ、遺産分割はできません。
「どんな遺産があるかわからないけど、遺産分割をしといて」と言われたらどうですか?
できませんよね。
遺産分割をするためには、正確な遺産を知る必要があります。
そして注意してほしいのが、遺産の調査というと「プラスの財産」に目がいきがちですが、まず調べるのは「マイナスの財産」です。
プラスの財産よりマイナスの財産が多ければ、遺産分割どころではありません。
相続放棄を視野に入れて、方針を決めることになります。
ですので、まずはマイナスの財産の調査から取り掛かりましょう。
9.4 遺産分割協議をする【STEP4】
調べた相続財産をもとに、相続人みんなで遺産分割の話し合いをします。
自分の意見を押し通すだけではなく、相手の言葉にも耳を傾けて話し合いをしましょう。
相続人全員が納得できるラインを見つけて、まとめていきます。
独りよがりな主張は、百害あって一利なしです。
相続で一番大切なことは、相続人同士でモメないことです。
これを忘れないようにしましょう。
9.5 遺産分割協議書を作る【STEP5】
遺産分割の話し合いがまとまったら、その内容を反映させた遺産分割協議書を作ります。
余計な不安を残さないためにも、必ず作りましょう。
- あの土地は、俺がもらうと決まってたはずだ
- わたしは、その内容(遺産分割)に納得してない
- そもそも俺は反対だったんだ
時間が経つと、人の気持ちは変わります。後日、こんな主張をする相続人が現れるかもしれません。
どんなに仲の良い家族であったとしても、必ず遺産分割協議書は作るようにしてください。
10 まとめ
遺産分割の「方法」や「種類」について紹介してきました。
- 現物分割
- 換価分割
- 代償分割
これらは、相続人たちで争わないように、各家庭の事情に対応できるように作り出されたものです。
頭でっかちになって、小手先の法律論を振りかざすのではなく、相手の立場に立って遺産分割を進める気持ちを持ちましょう。
遺産分割は誰かの欲望を満たすためのもではなく、相続人みんなが公平に分けられるようにするための手段です。
これを忘れず、相手の立場に立ちながら自分の考えを整理していけば、必ず良い結果が待っています。
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