【失敗体験談1】成年後見人でも何でもできるわけではない
成年後見は大切な制度です。しかし、万能な制度ではありません。
「こんなはずではなかった」と後悔しないために、実際にあった失敗事例をご紹介したいと思います。
1 成年後見人は何でもできるわけではない
A ・・・被後見人になる人
旦那 ・・・Aの旦那
社会福祉士X ・・・後見人になる人
A(87歳・女性)は3年前から認知症になり、旦那さんが「ひとり」で身の回りの世話をしています。その旦那さんも高齢で、いつまでAを介護できるかわかりません。
友人の勧めで社会福祉協議会に相談に行くことになりました。旦那さんも慣れない雰囲気で緊張しています。うまく自分の置かれている状況を説明できず、繰り返し相談員に伝えました。
「そういう事情なら成年後見制度を利用してはどうですか」
相談員の方が丁寧に説明をしてくれます。
現状に限界を感じていた旦那は、さっそくAのために成年後見の申し立ての準備に入ります。無事に申し立てが認められ、社会福祉士Xが成年後見人として選ばれました。
成年後見人Xは、Aとその旦那の意向を汲み取りながらサポートをしてくれています。旦那さんも安堵の表情を浮かべています。
1.1 旦那さんが他界
それから半年後、旦那さんがこの世を去りました。突然のことでAも理解が追いつきません。
後見人XはAに代わって、通夜や告別式その他葬儀一切を手配し、無事に終えることができました。
四十九日も終わり、一段落ついたところで相続の手続きをすることにした後見人Xは、紹介をしてもらった司法書士の事務所へ相談に行くことにしました。これまでの事情を話し、その司法書士に相続手続きを依頼します。
1ヶ月後、司法書士から調査結果の報告が入りました。
「旦那さんには離婚歴があり、前妻との間に子供Bがいるようです」
もちろん「子供B」も相続人です。旦那の相続人は、Aと子供Bのふたりのようです。
さらに二週間が経ち、遺産の全容も見えてきた。
【遺産】
- 預貯金 600万円
- 自宅(土地・建物) ← 評価額5400万円
Aは、遺産である自宅に今でも住んでいます。
1.2 息子Bとの話し合いは難航
後見人Xは、司法書士からのアドバイスを聞きながら息子Bと連絡を取ることにしました。突然、電話をしても警戒されてしまうと考えた後見人Xは、司法書士から遺産の概要とAの意向を書いた手紙を送ることにしました。
Bから返事が届きます。
「自宅をAが相続するなら遺産総額の半分にあたる3000万円を用意してほしい」と書かれています。
『預貯金600万だけでは2400万円足りない』
後見人Xは頭を抱えてしまいました。
司法書士を通して、話し合いを続けるも平行線をたどるだけで進展が見られません。
1.3 裁判所の審判(しんぱん)
とうとう話し合いの舞台を裁判所へ移し「調停」へ。調停も合意に至らず裁判所の判断にすべてを委ねることになってしまいました。
『自宅を売却し、その代金と預貯金を相続人ふたりで等分して相続しなさい』
一番避けたかった審判が下りました。
2 アドバイス
成年後見人は本人をサポートする権限がありますが、本人が持っている以上の権利を使えるわけではありません。
このようなケースでは、旦那さんは後見制度ともに遺言書を遺しておくべきでした。自分とA(被後見人)の住んでいる自宅を、「Aが単独で相続する」との遺言書を書いておくだけで、今回のような問題は回避することができました。
成年後見制度は万能なものではありません。そのため状況に応じて、いくつかの制度を組み合わせて使っていきましょう。
3 まとめ
いかがでしたでしょうか。
成年後見制度は本人の利益を守るために必要なものです。しかし、違う側面から全体をとらえれば不十分な面も併せ持っています。
それを補うために広い視野で、他の制度と合わせて利用していきましょう。欠点があるから使わないのではなく、それを埋め合わせできる方法を探していく姿勢を忘れないようにしましょう。