なんで相続人でもないのに遺産が相続できるの?|特別縁故者とは
『結婚をして、子供を産み、孫が生まれ、そしてその人たちに見守られ、天国に旅立つ』
以前は、このような人生が一般的だったのではないでしょうか。しかし、今はそうとも言えません。いろいろな生き方があります。
生涯独身で子供をつくらずに、子育てとは別の生きがいを見つけ、人生を楽しんでいる方も多くいらっしゃいます。「友人や、いとこ同士で共同の家を借りて一緒に生活している人」「友達同士で旅行やドライブなどの趣味を満喫している人」「仕事や経営にやりがいを見つけ働いている人」とさまざまです。
これらもひとつの在り方です。
しかし注意しなければいけないこともあります。いとこや友人などは、「親子や兄弟」と決定的に違うことがあります。それは、「相続人」にはなれないということです。どんなに、ふたりのつながりが強くても相続人になれません。
「そんなのは当たり前じゃん」
多くの方は、このように考え遺産を引き継ぐことを諦めてしまっています。でも実はそのような関係でも、遺産を受け取る方法があるのです。
ここでは、その裏技についてご紹介します。
目次
1 「いとこ」でも遺産を相続できる??
相続人ではない人が遺産を相続するというのは一般的ではなく、いまいちイメージすることができない人も多いと思うので実際にあった事例を先に紹介します。
イメージできている方は「2 特別縁故者への財産分与とは」からお読みください。
A ・・・Bのいとこ。今回の相談者
B ・・・被相続人。夫と子供はいない
相談者はA(67歳・女性)さん。結婚したことはなく、子供もいません。Aさんは、いとこのB(69歳・女性)さんと本当の姉妹のように生活を送ってきました。
Bさんは、19年前に夫を亡くし、ふたりの間に「子供」はいません。夫から相続した自宅にひとりで住んでいました。
8年前に足を骨折したBさんは、自力で歩くことができず、車いす生活です。掃除や食事の支度、病院までの送り迎えは、Aさんが時間の許すかぎりひとり引き受けています。
Aさんは、Bさんの家から自転車で15分ほどのところにアパートを借りて生活しています。AとBはお互い、どちらかが先に天国に旅立ったら自分の財産を自由に使ってくれと伝えあっていました。
残念ながら遺言書は残していません。
Bさんが亡くなり、Aさんはお通夜・告別式・火葬の手配をすませ、費用はすべてAさんが支払いました。四十九日が終わり、ひと段落ついたところで、相続の手続きに移りました。
その時、知人から言われた言葉が、
「あなたは相続人ではないので相続する権利はないでしょう」
でした。
どんなに助け合った仲でも、相続人でなければ遺産を受け取ることはできません。「兄弟や姉妹」、「親子」のように、相手を心配し手を差し伸べ、互いに助け合っていたとしても相続人になることはないのです。
ですが、このようなケースでも財産を受け取る方法がひとつだけあります。それが「特別縁故者への財産分与」です。
2 特別縁故者への財産分与とは
ここから読み始めた方のために繰り返しますが、相続人でない人が遺産を受け取る方法は「特別縁故者への財産分与」の手続きです。
特別縁故者とは「親子」や「兄弟姉妹」ではないけれども、それと同じくらい深い関係にあった人のことです。
この制度を深く理解してもらうために、相続人がいない場合、遺産がどうなるのかを振り返ってみたいと思います。相続人がいない場合は遺産の全部が国に帰属します。つまり、すべての財産が国のものになってしまうのです。
先の事例を思い出してみましょう。AさんとBさんの関係は、親子や姉妹と何が違うのでしょうか。同じように助け合って、同じように心配しあって、ともに生活を送ってきました。
それでもAさんは相続人ではありません。このままですとBさんの遺産は国のものになってしまいます。「Aさんは一銭ももらえずに、国は遺産をすべてもらえる」この結論に納得できる人は多くないでしょう。
この感情を調整するために「特別縁故者に対する財産分与」のしくみが生み出されました。
2.1 特別縁故者への財産分与|そもそもの「前提条件」
特別縁故者への財産分与は、当事者の感情を考慮した仕組みではありますが、もしもBさんに「子供」がいたのであれば、Aさんはどんなに献身的な看病をしていたとしても財産を受け取ることはできません。
特別縁故者として財産を受け取るためには、次の条件を満たしている必要があります。
- 相続人がいない( すでに死んでいる場合も含む )
- 相続人全員が相続放棄をした
特別縁故者にあたる場合でも、相続人がいれば遺産を受け取ることはできません。
2.2 特別縁故者と認められるための3つの条件
特別縁故者の制度は「相続人でもない他人」が財産を受け取れるという強力なものです。無条件で認めるわけにはいけません。悪用されないためにもルールが必要です。
どのような人が、特別縁故者になれるのか見ていきましょう。
【1 被相続人と生計を同じくしていた者】
結婚はしていない内縁の夫や妻、養子縁組はしていないが、本当の親子のように生活していた親や子が、これに当たります。
【2 被相続人の療養看護に努めた者】
被相続人の食事や掃除、買い物などの身の回りの世話や看護をした人です。
【3 その他被相続人と特別の縁故があった者】
1と2に近い状況にあって、亡くなった人だったら、その人に財産を受け取ってもらいと考えたであろうといえる関係にあった人が、これに当たります。
3 特別縁故者として財産を受け取るまで|手続きの流れ
特別縁故者であっても、何もせずに自動的に遺産がもらえるわけではありません。
- 親切な人が世話をやいてくるわけではありません。
- 国が手続きをしてくれるわけでもありません。
- 裁判所が指示してくれるわけでもありません。
自分で行動を起こさないかぎり、遺産を手にすることはできないのです。
特別縁故者として遺産を受け取るまでの大まかな流れは次のようになります。
- 相続財産管理人の選任
- 相続債権者と受遺者に対するお知らせ
- 相続人の捜索
- 特別縁故者に対する財産分与の申し出
- 特別縁故者の認定
特別縁故者として財産を受け取るまでには、少なくとも1.5~2年はかかります。
【相続財産管理人の選任】
特別縁故者が遺産の全部または一部をもらえるとしても、それは裁判所の審判(しんぱん)があった後のことです。
その審判があるまでは、特別縁故者は遺産について何の権利もありません。そうすると、遺産が宙に浮いてしまいます。誰のものなのか分からずに「誰も管理することができない状態」と思ってもらえればわかりやすいと思います。何もできない状態です。手詰まりです。
そこで法は、相続人がいないときは自動的に「遺産」が法人になり、その法人が遺産を持っていると考えることにしました。
しかし法人とは実体がありません。触ることもできなければ話すこともできません。法人という言葉がわかりにくければ会社を想像してください。
法人は形がなく動いたり話したりすることができないので、その法人の代わりに行動を起こしてくれる人を裁判所に選んでもらいます。
この人が「相続財産管理人」です。
【相続債権者と受遺者に対するお知らせ】
特別縁故者より優先して遺産を受け取れる人がいます。それが次の者です。
- 相続債権者
- 受遺者
相続債権者とは被相続人に対してお金を貸していた人などです。受遺者とは遺言書で遺産を取得できる人です。まず、これらの人が優先して遺産を手にすることができます。特別縁故者は、そのあとです。
「これらの人がいない場合」や「これらの人に対して遺産を渡しても残っている場合」に、特別縁故者が受け取ることができます。
【相続人の捜索】
言葉のままですが、これは改めて相続人を念入りに探すことです。
先の事例では、Aさんが自分のお金を使い、お通夜や告別式、火葬の手配をしてくれました。
このような場合でも、もしBさんに子供がいればその人が相続人です。相続人がいれば、どんなに被相続人の生活に貢献していたとしても、Aさんは遺産を一切もらうことができません。
先に説明をしましたが、特別縁故者への財産分与は相続人がいないことが前提です。
ですので、相続人がいないことを明らかにするために改めて相続人を探します。
【特別縁故者に対する財産分与の申し出】
自分が特別縁故者として、財産を受け取る権利があることを裁判所へ伝えます。
ただ、「自分は特別縁故者です」と言っても裁判所は認めてくれません。
被相続人とのこれまでの関係や介護や看護を通して、どれだけ貢献したのかを証明しなければいけません。
出せる証拠は、すべて提出しましょう。
自分で、これは関係ないと判断せずに「証拠として出せるもの」や「主張」は後悔しないためにも出し切りましょう。
余計なものかどうかの判断は裁判所に任せればいいのです。
【特別縁故者の認定】
おめでとうございます。特別縁故者として遺産を受け取ることができます。
ただし、すべての遺産をもらえるわけではありません。
どれくらいの財産が手元にくるかは、裁判所の判断になります。
ほとんどの財産をもらえる方もいれば、1割くらいしか受け取れない方もいるでしょう。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか。
特別縁故者として遺産を受け取る方法をご紹介しました。相続人がまったくいない方というのは少ないかもしれませんが、いないわけではありません。
もしもAさんと同じような境遇にいる方は、諦めずに特別縁故者への財産分与を利用することをオススメします。