成年後見制度でも「できないこと」&成年後見人の「デメリット」まとめ
成年後見の申し立てをするに至った理由は人によってさまざまでしょう。「理由はないけど、とりあえず成年後見制度を利用した」という方は、あまり見たことがありません。
何かしらの「きっかけ」があって成年後見の申し立てをする方がほとんどです。
- 本人の不動産を売却するため
- 遺産分割をするため
- 預金を引き出すため
- 施設と入所契約をするため
- 要介護認定の申請をするため
にもかかわらず、成年後見制度を利用しても「そのきっかけとなった原因」を取り除くことができなかったとしたら、あなたは「その時」どう思うでしょうか。
「なんのために面倒な手続きをしたんだ~」
成年後見の手続きは、本人のためのものですので無駄ということはありませんが、あなたの期待が裏切られることは間違いありません。
「こんなはずではなかった」と思わないために、今回は成年後見制度の「デメリット」や「利用してもできないこと」をわかりやすく解説したいと思います。
1 成年後見は「(本人の)家族」のための制度ではありません
成年後見は「本人の利益を守るための制度」です。誤解を恐れずに言ってしまうと「本人の家族を守るための制度ではない」ということです。
「本人の利益になる行動」は認められますが「家族の利益のためだけの行動」は認められません。「本人の利益」と「家族の利益」が一致していれば問題ありませんが、必ずしもそうなるとは限りません。
「家族の幸せは、本人にとっても幸せ(利益)なんだぁー」
もちろんそうでしょうが、成年後見制度において「本人の利益かどうか」は「形式的」に判断します。実際に利益になったかどうかは関係ありません。
たとえば本人が、子供の就職祝いに「2泊3日の温泉旅行」をプレゼントしたとしましょう。
『元気なうちは、問題ありません』
プレゼントされた子供も嬉しいでしょうし、何よりもプレゼントした「本人」が子供の喜ぶ姿が見られて嬉しいでしょう。
でも判断能力が下がったあとは、そう単純に考えることができません。
成年後見制度においては感情はひとまず置いておいて、この行為をすることによって誰が利益を受け、誰が損をしているのかを「形式的に判断する」ことになります。「2泊3日の温泉旅行」について実際に考えてみましょう。
- 本人 : お金が減る
- 子供 : タダで温泉旅行に行ける
そして、この間には因果関係があります。つまりは、本人のお金が減ったからこそ、子供はタダで温泉旅行に行けたということですね。
形式的に見ると、本人は「お金が減る」という不利益しか受けていません。先ほど説明したとおり、本人にとって利益になっているかどうかは形式的に判断します。「もし本人が判断能力が正常だったならば、それを望んだはずだ」「それが本人の幸せだ」といった感情面はいっさい考慮されません。
したがって、この「2泊3日の温泉旅行」のプレゼントを形式的に判断すると成年後見制度においては、この行為が認められることはないとうことです。
当事務所にも次のような行動を取りたいがために成年後見を使いたいと相談に来るお客様が多くいます。
- 相続税対策のためアパートを建てたい
- 相続税対策のため生命保険に入りたい
- 融資を受けるために本人の不動産を担保に入れたい
これらはすべて成年後見人をつけても認められることはありません。
- 相続税対策は誰のためにするものですか?
- 不動産を担保に入れるのは誰のためですか?
相続税対策は相続人のためであり、不動産を担保に入れるのは借り主のためです。本人の利益のための行動ではありません。
本人の立場から考えると、これらの行為は資産価値を減少させるだけの効果しかありません。成年後見の仕組みは本人の利益を守るための制度です。
成年後見人の行動として認められるためには、家族のためではなく本人にとって利益になっている必要があります。そして、利益になっているかどうかは形式的に判断することになります。
2 成年後見制度のデメリット
判断能力が下がった本人が後見開始の審判を受けると、その本人(成年被後見人)が会社の「取締役」や「監査役」になっている場合、その地位を失うことになります。
もしも本人が役員報酬をもらっていて、そのお金が生活の基盤になっているのであれば、成年後見の申し立てをする前に、収入源の調整をするようにしましょう。
他にも、成年後見人や保佐人がつくと下記の地位を失います。
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
- 税理士
- 公認会計士
- 社会福祉士
- 医師
など
これらの専門家は、高度な知識や経験をもとにサービスを提供してします。判断能力が低下すると、そのサービスの質を保てなくなり、依頼者に損害を与えてしまうからです。
3 成年後見制度を使ってもできないこと
【相続税対策】
相続税対策は相続人のためのものです。
相続税が安くなるということは、違う視点に立てば本人の財産が減っているということです。
このような本人の不利益になる行為は認められません。
【リスクの高い資産運用】
「銀行に預けても雀の涙程度の利息しかつかない、なら株や投資用マンションを買って資産を増やしてあげよう」と考える人もいるかもしれませんが、それは成年後見制度では認められません。
成年後見は、本人の財産を守るためのものであって、積極的に本人の財産を増やす仕組みではないからです。
【選ばれた専門職後見人を理由もなく解雇する】
司法書士や社会福祉士などが後見人になると、毎月一定額の報酬を払うことになります。
家族の心情としては、それを面白くないと思う人もいるでしょう。
しかし、後見人としての職務怠慢やそれと同視できるだけの不誠実な行動がなければ、解任することはできません。
【子供や孫などの親族へ贈与すること】
これも相続税対策と同じで、本人の財産を減少させる行為になるので認められません。
たとえ、判断能力が下がる前に本人が言っていたとしてもです。正式に契約書を作ってあり、それを証明できれば別ですが、それがないかぎり裁判所に認められることはないでしょう。
【資格制限を受ける】
取締役や監査役は退任することになり、その報酬ももらえなくなります。
弁護士、司法書士、行政書士、税理士などの資格も失います。
【身分上の行為】
婚姻、離婚、認知、養子縁組、遺言などを成年後見人として代理することはできません。
これらの行為は、本人の考えがすべてであり、成年後見人といえども本人以外の考えを取り入れるべきではないからです。
【手術に対する同意】
手術が決まると、担当医から手術が必要な理由とその際のリスクや副作用について説明を受け、その手術の同意を求められます。
本人が同意できない場合は、後見人に対し同意書へサインをするように求められることがあります。
しかし、後見人には(身体的侵襲を伴う)医療行為についての同意権はないと考えられています。
【通夜、告別式などの死んだあとの手続き】
成年後見人の仕事は、本人が死亡すると終了します。成年後見人は、本人が安心して平穏に生活ができるようにサポートすることが仕事です。これは本人が生きていること前提とした内容ですね。判例もこの考え方に立って判断を下しています。
しかし法的に権限があるかどうかと、実際にこれらをするかどうかは分けて考える必要があります。
実際に成年後見人としてサポートしていると、どうしてもこれらの行為をしなければいけない場面に出くわします。家庭裁判所も実質的には認めてくれる傾向にあります。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか。
成年後見制度の「デメリット」や「この制度を利用してもできないこと」をご紹介しました。
このふたつをご紹介した理由は、成年後見制度の利用を思いとどませるためではありません。成年後見制度が何のためにあるのかを再認識してもらうためにこの記事を書きました。
成年後見制度は判断能力が下がった方にとって必要な制度です。もう一度、それを思い出してください。そのうえで、成年後見制度と付き合っていただければ嬉しいかぎりです。