【任意後見契約の手続き】5つのステップでスッキリわかる!
「任意後見契約」がどのような流れで進んでいくのかをわかりやすく解説したいと思います。
任意後見契約は「あなたが元気なうちに」、もしものときに備えて「後見人になってくれる人」をあらかじめ選んでおく制度だと『任意後見制度を知らないと人生の10年間を損します!』でご紹介しました。
この記事は「任意後見のイメージ」が持てるように特徴をフォーカスして書いてあります。
「(任意後見について)実はよくわかってないんだ~」
という方は合わせてお読みいただくと理解が深まります。
【法定後見との比較】
法定後見は、本人の判断が下がったあとに家族などの申し出により成年後見人を「家庭裁判所」が決めます。
- 任意後見契約をしたいが何から手を付けていいのかわからない
- 任意後見契約の流れが知りたい
- 任意後見契約にはいくつかのパターンがあると聞いたが、本当なの?
任意後見契約のことを知り、このような疑問が頭に浮かんでいる方もいるでしょう。そこで、今回は任意後見契約について、「契約の締結」から「任意後見人としてサポートはじまる」までの流れについてご紹介します。
目次
1 任意後見契約の流れ|5つのステップ
まずは全体像を把握するために任意後見契約の流れを抑えましょう。任意後見は次のような順番で進んでいきます。
【STEP1】
将来を託す「後見人」を決める
【STEP2】
「どのような支援」「どのような生活」を望むのかを考える
【STEP3】
任意後見契約を「公正証書」で結ぶ
【STEP4】
判断能力が低下したら「任意後見監督人選任の申し立て」をする
【STEP5】
任意後見人として支援がスタート
一つ一つ詳しく見ていきましょう。
(1)将来を託す後見人を決める
【STEP1】
まずは、自分の将来を託す「信頼できる人」を見つけます。つまりは、もしものときに誰に支援してもらいたいのか決めるということですね。任意後見制度において一番重要なステップです。
「支援内容を決めることのほうが重要なんじゃないの?」
たしかに支援内容(STEP2)を決めることは大切です。ですが、サポートをする「後見人」が不誠実な人では「どんなに素晴らしい計画」を立てても、それはすべて絵に描いた餅で終わってしまいます。
後見人としてのサポートは数日で終わるものではなく、何年もつづく長丁場であることがほとんどです。判断能力の下がった方を支援していると最初の頃は平気でも徐々にイライラしてしまう人がいます。介護現場においては多くの方が一度は経験しているのではないでしょうか。
認知症になり判断能力が下がると、私たちの常識で考えると予想もできない行動をとってしまうことがあります。何度、教えても忘れてしまうことがあります。何度お願いしても危険な行動を取ってしまうことがあります。それでも、本人のことを考え、本人に寄り添いサポートできる人を選ぶ必要があります。
後見人として本人をサポートするためには認知症の知識は不可欠なものです。詳しく知らない方は『【認知症とは】成年後見人として知ってもらいたい認知症の正しい知識』も合わせてお読みください。
また、「長い間」他人の財産を自由にできてしまうと、必ず「良からぬこと」が頭に浮かびます。
「このお金を自分のために使ってしまおうかな」
はじめから不正をしようとする後見人はいません。長期間、後見人として本人をサポートするうちに甘い誘惑に負けてしまう方がいるのです。
「自分も、もしかしたら不正を働いてしまうかもしれない」
と考え、そうならない環境を作る努力を継続できる「信頼に値する人」を選ぶようにしましょう。
【注意点】
原則として任意後見人は、あなたが自由に選ぶことができますが次の方は任意後見人になれません。
- 未成年者
- 破産者
- 行方不明者
- 家庭裁判所によって法定代理人を解任させられた者
- 本人に対して訴訟をした者とその配偶者と直系血族
- その他任意後見人として適切ではない事由がある者
(2)「どのような支援」「どのような生活」を望むのかを考える
【STEP2】
「任意後見」は法定後見と違って「どのようなサポート」を受けたいのか、自分で決めることができます。
- 訪問介護や訪問看護を利用して、できる限り自宅で生活したい
- 判断能力が下がったら、自宅を売却して「老人ホームおと」に入りたい
- 病気になったら、かかりつけ医である「おと記念病院」で診察を受ける
など、「自分の将来の生活」を「自分」で決めておくことができます。
これも法定後見との大きな違いです。「法定後見」は、判断能力が下がったあとに成年後見人が選任されるので、そのサポート内容は本人の意思を尊重するといっても、それは成年後見人の推測にすぎません。
任意後見の場合は、あらかじめ「契約書」にサポート内容を具体的に書くことができるので「より本人の意思を反映させることができる」といったメリットがあります。
(3)任意後見契約を「公正証書」で結ぶ
【STEP3】
この制度は任意後見「契約」というくらいなので、本人と後見人のふたりで契約を結ばなければいけません。そしてこの契約は「公正証書」でしなければいけないというルールがあります。
ですので、次の場合は効力がありません。
- 契約が口約束
- 契約書があっても当事者ふたりが作ったもの(私文書の契約書は無効)
公正証書というのは、公証人に作ってもらった文章のことです。公証人というのは「ある事実関係」や「法律関係」を公に証明してくれる人です。
STEP2の内容を中心に任意後見契約の内容をかためていきます。詳しくは「2契約からサポートがはじまるまでには3つのパターンがある」で説明しますが、契約のゴールを見据えてスキーム(枠組み)を組み立て、「公正証書」にしてきます。
公証人は形式面のチェックはしてくれますが、内容まではアドバイスしてくれませんので、自分たちで考える必要があります。
(4)判断能力が低下したら「任意後見監督人選任の申し立て」をする
【STEP4】
任意後見契約は、その約束(契約)をしただけでは効力がありません。
契約の効力は、
- 本人の判断能力がさがり
- 家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てをし
その監督人が選任されたときに生じます。
なぜ監督人を選任するのかというと、任意後見人は本人の財産を自由にすることができます。その権限は契約に定めた内容に限定されるものの、本人に代わって(本人の)お金を自由に使うことができます。
先ほども少し触れましたが、長年、後見人としてサポートしていると心にスキが生れやすいです。
「すこしくらい自分のために使ってもいいんじゃないか」
人間とは弱い生き物です。誰にも監視されていないと不正に手を染めてしまう人が出てきます。そこで、「任意後見人」を監督する「任意後見監督人」を選任したときから効力が生じるとしています。
任意後見監督人の選任申立ができる人は次のとおりです。
- 任意後見受任者(後見人になる人)
- 本人
- 配偶者
- 4親等内の親族
(5)任意後見人として支援がスタート
【STEP5】
任意後見人としてのサポートがスタートします。
任意後見契約の内容にしたがって本人が安心した生活を送れるように支援していきます。
2 「契約」から「サポートが始まるまで」には3つのパターンがある
任意後見の契約を結んでから任意後見人のサポートが開始するまでの流れについて、大きく3つに分けることができます。
- 将来型
- 即効型
- 移行型
一つ一つ詳しく見ていきましょう
2.1 将来型とは
これは、あなたが「元気なうち」に(財産管理については)任意後見契約「だけ」を結んだ一番わかりやすくケースです。
任意後見の効力が発生するのは、あなたの判断能力が低下したときでしたね。それまでは、誰のサポートも受けずに「あなたの考え」だけで何でも自由にできます。
そして、「将来」、判断能力が低下してしまったときに一定の手続きを経て、任意後見人があなたをサポートすることになります。
「現在」は誰のサポートも受けることなく生活を送り、「将来」判断能力が下がったときに「はじめて」効果がでる(任意後見人のサポートを受ける)ので、「将来型」と呼ばれています。将来、効果がでるので将来型です。
- 現在 : だれのサポートも受けない
- 将来 : 任意後見人のサポートを受ける
2.2 即効型とは
即効型とは、判断能力が下がった状態で任意後見契約を締結し、「すぐに」家庭裁判所へ監督人の選任を申し出ることによって任意後見人が「すぐに」サポートにあたります。将来型とは違って契約後に「だれのサポートも受けない期間」がありません。
すぐに任意後見人のサポートがはじまるので「即効型」と言われます。これは軽度の認知症であれば、任意後見契約を締結することができるとされているため使える手法です。
しかし、この即効型は注意が必要です。軽度の認知症であれば大丈夫といっても、契約を結ぶためには「一定の判断能力」が必要です。その判断能力がなければ契約を結んでも無効になってしまいます。
即効型を利用する場合には、医師の診断書や意見書を取り付けるなどし、本人が契約の内容を理解しているのか慎重に見極めるようにしましょう。
2.3 移行型とは
移行型とは「任意後見契約」と「財産管理委任契約」をセットで結び、判断能力が下がる前から信頼できる第三者のサポートを受けられるようにする形態です。
財産管理委任契約とは「財産管理を目的とした委任契約」です。「後見契約」ですと判断能力があるうちはサポートすることはできませんが、「(民法上の)委任契約」であればそのような制限はありません。
以前、私が手掛けたケースをご紹介します。
相談者は父と息子です。現在、お父さんは頭もしっかりしていますが、ひざが悪く移動には「車いす」を使っています。銀行に行くのも、役所に行くのも、大変です。
お父さんとしては息子に後見人になってもらいたいと思っていますが、現時点では判断能力がしっかりあるので「成年後見制度」は使えません。この点を詳しく知りたい方は『身体が不自由な方は成年後見制度を利用できるのか?』もどうぞ。
判断能力が下がってからの「法定後見」では、誰が成年後見人なるのかわからず不安だといいます。
そこで、息子さんが必ず後見人になれるように「任意後見契約」を結び、さらに判断能力が下がる前にも息子が父に代わって銀行や役所の手続きをできるように「財産管理委任契約」を結ぶお手伝いをしました。
- 判断能力があるとき : 委任契約を利用して息子がサポートにあたる
- 判断能力がないとき : 任意後見を利用して息子がサポートにあたる
このように判断能力の程度に応じて使う制度や契約を使い分ける、別の言い方をすれば移行する形態を移行型と呼びます。
ここでは詳しく説明しませんが、委任契約をセットで結ぶ場合は必ず判断能力が下がったときは、その委任契約の効力がなくなる解除条件をつけましょう。
このような「財産管理契約」をオプション契約といいます。他のオプション契約についても、ここでご紹介します。
2.4 オプション契約
任意後見契約も一長一短があり、万能ではありません。そのため長所を伸ばし、短所を補うために任意後見契約とセットで他の契約を結ぶことが多くなっています。このセットで結ぶ契約をオプション契約と呼び、先ほど紹介した財産管理委任契約もその一つです。
【オプション契約】
- 見守り契約
- 財産管理委任契約
- 死後事務委任契約
3 任意後見契約のメリット・デメリット
どんな制度でも一長一短があるものです。任意後見制度にもメリットとデメリットの両方の側面を持っています。手続きを利用する前に必ず確認しましょう。
【任意後見のメリット】
(1)あなたが任意後見人を選べる
成年後見制度は、後見人にサポートしてもらいながら、本人がこれまでと同じような安心した生活が送れるようにするためのしくみです。
この制度が、うまくいくのかどうかは後見人の人柄にかかっていると言ってもいいでしょう。
どんなに法律の知識が豊富な司法書士や弁護士が後見人になっても、あなたが望む未来が手に入るわけではありません。誠心誠意にサポートをつづけてくれる情熱は、ときに知識よりもずっと重要な場合があります。「本人にとって生活しやすい環境とはどういうものなのか」「本人ならどんな結果を望むのだろうか」「本人が避けたい未来とはどのようなものか」といった本人のために考え続けることが大切です。
そのキーマンとなる後見人を自分で選んでおけるというのは、何よりもメリットではないでしょうか。
(2)サポート内容を自分で決められる
「任意後見」はもしもの時に「どのようなサポート」を受けるのかを契約書に具体的に盛り込むことができます。
それに対して「法定後見」は本人の考えを尊重しながらサポートにあたりますが、すでに本人に判断能力がないため、必ずしも本人の望むものなのかわかりません。
その点、任意後見契約においては、自分のサポート内容を自分で決めておくので必ず本人が望むサポートを受けることができます。
【任意後見のデメリット】
(1)取消権がない
成年後見人は、本人と24時間365日ずっと一緒にいるわけにはいきません。
すると、後見人がいないときに(本人自身が)自分に不利な条件で第三者と契約をしてしまうかもしれません。そしてそれを受け入れなければいけないとすると本人の利益を守ることができません。
そこで、本人の利益を守るため「法定後見における成年後見人」には本人がした行為を無条件で取り消すことができる取消権が与えられています。
しかし、この取消権は「任意後見人」にはありません。
- 法定後見 : 取消権あり
- 任意後見 : 取消権なし
(2)葬儀や火葬などの死後の手続きができない
任意後見人のサポートは本人がなくなると終了します。
成年後見の目的は、本人の生活をサポートすることなので、本人が死んでしまったあとはお役御免で何の権限もなくなります。
そのため告別式や火葬その他の葬儀一切は任意後見人として手続きをすることができません。
4 任意後見契約の終了
任意後見契約の終了は、「監督人」が選任される「前」か「後」かによって変わります。
任意後見契約に関する法律 第9条
1 任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者はいつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
2 任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。
4.1 任意後見監督人の選任前の解除
任意後見契約は、いつでも解除することができます。契約なので当事者が納得していればいつでも終わらせることができるのは当たり前ですね。
注意点としては、任意後見の解除は「公証人の認証を受けた書面」でしなければ効果がないということです。
私文書や口頭の解除はできないので注意してください。
4.2 任意後見監督人の選任後の解除
監督人選任後の任意後見契約は、「正当な事由がある場合」に「家庭裁判所の許可」を受けない限り解除することができません。
正当事由としては、たとえば次のような場合です。
- 任意後見人が遠方に引っ越すことになりサポートが難しい
- 任意後見人が病気やケガで十分なサポートをすることができない
など。
4.3 それ以外の終了事由
解除以外にも次のようなケースで終了します。
- 任意後見人の解任 ※1
- 本人または任意後見人の死亡
- 任意後見人が後見開始の審判をうけた
※1
任意後見人を解任するためには、本人・監督人などが家庭裁判所へ申し立てる必要があります。そして任意後見人を解任するためには次の理由が必要です。
- 不正な行為 ・・・法律違反や違法行為
- 著しい不行跡 ・・・横領など、社会的に非難される行為
- その他任務に適しない事由 ・・・上記と同視できるような任務懈怠があったとき
まとめ
いかがでしたでしょうか。
任意後見契約は、「もしものときに、自分の信頼する人に生活のサポートを任せたい」という願いを叶えてくれる制度です。
「今は元気だから自分には関係ない」
と思う人もいるでしょうが、知っていて損はない制度です。何度か読み直してもらい頭の片隅に入れてもらえれば幸いです。