遺産がもらえない!を解決する相続で役に立つ「遺留分」とは?
- 『相続人なのに遺産がもらえない!』
もし、あなたが相続人だとして、次のような遺言書を見つけたとしたら「すんなり」と受け入れることができるでしょうか。
「遺産は、あなた以外の相続人にすべて相続させる」
その時、あなたは「どのように感じ」「どのような行動」を取るのでしょうか。
- 悲しみに暮れる
- 他の相続人に怒りをぶつける
- 物にあたる
このような「行動」や「感情」を抱くことで、気持ちの整理ができる方はここで読むのをやめてください。違うという方だけ読み進めてください。
読み進めているということは、遺産がもらえない「この状況」を他の方法で解決したいということですね。
そんなあなたのために、現状を打ち砕く「遺留分の制度」をわかりやすくご紹介したいと思います。
目次
1 遺留分とは
遺留分とは、「どんなことがあっても、これだけはもらえます」と相続人に保障された遺産の取り分のことです。
わかりやすいように具体例をご紹介します。
ある日、家族の看病もむなしく「父」が息を引き取ります。「母」が父の書斎を片づけていると引き出しの中から一通の封筒を見つけました。
大きな文字で「遺言書」とあります。父は遺言書を遺(のこ)していたようです。「母」と「子供たち」は、父の姿を思い出しながら封筒を開けます。
封筒から遺言書を取り出し、内容に目を通します。父との思い出がよみがえります。
遺言書
遺言者父(父の名前)は、次のとおり遺言する。
1.全財産をベルパーのA(昭和45年5月15日生)にあげる。
平成30年9月15日
東京都台東区雷門〇丁目〇番〇号
遺言者 父の名前 印
「え! え~!!!」
悲しみが、ぶっとんでしまうような遺言書を見つけてしまいました。このような時に、あなたの力になってくれるのが「遺留分」です。
このような遺言書を見つけても、「はいそうですか」と納得できる方は、それでもかまいません。
でも、そうはなりませんよね。
奥様にしてみれば、「旦那さんと二人で力を合わせて築き上げてきた財産」を1円ももらえないというのは悲しすぎます。
その取り戻したいという気持ちを、遺留分を使って叶えましょう。
2 遺留分|どれくらい取り戻せるのか?
「お父さん」が「ヘルパーさん」にすべての財産をあげてしまいました。
このようなケースでは、子供たちは「どれくらいの遺産」を取り戻すことができるのでしょうか。先の事例をもとに考えてみましょう。まず家族関係を振り返ります。
家族は「父・母・長男・長女」の4人。
父が亡くなり、相続人は「母・長男・長女」の3人です。
父は「ヘルパーのA」に全財産をあげてしまいました。
ではさっそく、遺留分(取り戻せる割合)を見ていきましょう。
遺留分は「(遺産全体の)2分の1」です。
これが生活のために最低限もらえる取り分です。これは「相続人みんな」で、この割合を取り戻せるということです。一人一人の遺留分(取り分)は、
- 母 : 2分の1(遺留分) × 2分の1(法定相続分) = 4分の1
- 長男 : 2分の1(遺留分) × 4分の1(法定相続分) = 8分の1
- 長女 : 2分の1(遺留分) × 4分の1(法定相続分) = 8分の1
です。つまりは「法定相続分の2分の1」が、各相続人の遺留分です。
ここでひとつ注意点があります。
それは「直系尊属(父母・祖父母など)だけ」が相続人になるケースは、遺留分(取り分)が変わります。
「直系尊属だけ」が相続人である場合の遺留分は、「(遺産全体の)3分の1」です。「父母」が相続人になるケースでも「父母」と「配偶者」がセットで、相続人になるケースの遺留分は「2分の1」になります。
まとめると、相続人と遺留分の関係は次のとおりです。
- 父母(または祖父母)のみ ・・・(遺産全体の)3分の1
- それ以外 ・・・(遺産全体の)2分の1
ここは間違いやすいので注意しましょう。
具体的に取り戻せる金額(2019年7月1日~)
遺留分の取戻しの請求をした効果としては、「遺留分を侵害した額」に相当する「お金」を返せと言えるようになります。実際に「いくら」取り戻せるのか、先ほどの例で計算してみましょう。
たとえば、ヘルパーに遺贈された遺産が「不動産3000万円・預金1000万円」だったとして計算してみます。
遺留分として「取り戻せる具体的な金額」は、
- 母 : 4000万円(遺産総額) × 4分の1 = 1000万円
- 長男 : 4000万円 × 8分の1 = 500万円
- 長女 : 4000万円 × 8分の1 = 500万円
となります。
2019年6月30日までは現物返還が原則でしたので、遺留分を返せと言うと「不動産」は「ヘルパーと相続人たちの共有」になってしまいました。2019年7月1日からは、遺留分の返還請求はすべて「金銭返還」を原則としています。
民法第1046条(遺留分侵害額の請求)
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる。
3 遺留分を考慮しない遺言書は無効なのか?
一口に「家族」といっても円満な家庭ばかりではありません。
- 何十年も顔を出さない娘
- お金だけを要求し、世話をしてくれない息子
- ギャンブルに明け暮れて、家庭をかえりみずに遊んでいる奥さん
悲しいことですが、実際にあります。もし、あなたがそのような家族を持っていたとしたらどう思うでしょうか。
- ボランティア団体に寄付をしたい
- 身の回りの世話を毎日してくれる友人に遺産をあげたい
- 介護をしてくれているヘルパーに財産を譲りたい
血のつながった家族ではなく「普段から世話になっている方」に、自分の財産をあげたいと考える人もいるでしょう。
「発展途上国の子供たちのためにお金を使ってもらいたい」
こう考えて、全財産を寄付する人もいるかもしれません。そこで気になるのは「相続人の遺留分を侵害(しんがい)している遺言書は無効になってしまうのか」です。
実は、このような遺言書も有効です。
遺留分とは、「子供」や「妻(または夫)」などの相続人に与えられた権利です。被相続人(亡くなった方)の行動を制限する「義務的なもの」ではありません。
遺留分を行使するかどうかは、相続人たちの自由です。「遺産を一切もらえない」との内容の遺言書が出てきても「それはそれで仕方ない」と受け入れてもいいわけです。
たまに専門家でも、「遺留分を侵害した遺言書は無効だ」という方がいますが、それは間違いです。
あくまで遺留分を考慮した遺言書のほうが、モメることが少なくなるというだけです。
もし、遺留分を侵害しているのはわかっているが、「どうしてもこの内容で遺言書を作りたいのだ」という強い意志があれば、そのような内容で遺言書を書くのもいいでしょう。
ただし、その遺贈を受ける方の気持ちも忘れてないでください。将来、もしも争いが起きてしまった場合、それに巻き込まれるのは遺贈を受けた方です。
4 相続人なのに遺留分が認められない??
次の方は「遺留分」がありません。
- 兄弟姉妹(故人の)
- 相続欠格者
- 相続を排除された人
- 相続放棄者
これを、より深く理解してもらうために、まず相続の仕組みについてお話します。相続の制度は、なぜ作られたのでしょうか。
それは、遺(のこ)された家族の生活を助けるためです。
大黒柱だったお父さんが急に亡くなっていまったら、その家族の「生活の基盤」は大きく崩れてしまいます。遺産のすべてを国に持っていかれてしまっては生きていくのも難しいですし、被相続人の感情としても国に持っていかれるよりは大切な家族のために使ってもらいたいと思うでしょう。
そこで、「相続」という制度が生まれました。
相続には、「奥さん」や「子供たち」の生活を守るといった側面を持っています。
にもかかわらず、相続人以外の人に、お父さんが全財産を遺贈してしまうとどうなるでしょうか。家族は生活ができなくなってしまいます。
このような場合でも相続人の生活を守る必要があり、そこで「遺留分」という制度が考えられました。ここまではいいですよね。
でも、次の人たちは相続人なのに遺留分を認めていません。
- 兄弟や姉妹(故人の)
- 相続欠格者
- 相続を排除された人
- 相続放棄者
なぜでしょうか。それぞれ詳しく考えてみます。
4.1 兄弟姉妹
相続人が、(亡くなった方の)「兄弟」や「姉妹」の場合には遺留分がありません。先ほどの相続の考え方が分かれば、すんなりと納得できるのではないでしょうか。
「親子」や「夫婦」といった関係で、「親」や「夫」が亡くなれば一大事です。明日からの生活だってどうなるかわかりません。依存度が高い分、影響は大きいわけです。
しかし「兄弟」や「姉妹」といった関係ではそうなるケースは稀(まれ)でしょう。時間の流れとともに別々の家庭をつくり、その依存度は徐々に失われていきます。
「弟の財産」を「兄」が相続できなくても、お兄さんが生活に困ることはほどんどないでしょう。ということは、「故人の家族が生活に困らないようにと作られた遺留分」を認める必要がないのです。
4.2 相続欠格者
相続欠格者(そうぞくけっかくしゃ)には、遺留分がありません。相続欠格者とは、人の道をはずれた行動を取り、相続する権利を失ってしまった人のことです。
例えば、
長男が、父親とケンカになり勢いあまって殺してしまった。
その結果、長男が父の自宅や預金を相続した。
とします。
あなたは、これをどう思いますか?これを認めるのは、変ですよね。なんとなく、しっくりこないですよね。
このような感覚を実現するためのルールが「相続欠格」です。
次の者は相続欠格者とされ、相続人にはなれません。
- 故意に被相続人を殺してしまった又は殺そうとして、刑に処せられた者
- 被相続人が殺されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者
- 詐欺・強迫におり、被相続人が相続に関する遺言を作成・撤回・取消・変更することを妨げた者
- 詐欺・強迫におり、被相続人が相続に関する遺言を作成・撤回・取消・変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書について偽造・変造・破棄・隠匿した者
そして当然ですが、これらに当てはまる人は遺留分も認められません。
4.3 相続を排除された人
相続を排除(はいじょ)された人にも遺留分がありません。
「長年に渡って虐待を受けていて、あいつにだけは相続させたくない」
このような考えを実現できるのが相続排除です。例をひとつ出します。
年齢を重ねるとともに体もいうことを聞かなくなり、自分ひとりでは生活ができません。
長男に日常の世話をしてもらっています。
最初のうちは、長男もまじめに介護をしてくれていました。
介護の期間が長くなるにつれて、長男のイライラもたまってきます。
ある時を境に、虐待が始まりました。
最初は、介護をしてもらっている感謝もあり、我慢していました。
しかし、虐待がひどくなり、ついに骨折する事態に。
そのあとも、虐待はひどくなるばかりです。
このように虐待を受けた場合に、自分の財産を長男が相続できないように家庭裁判所へ申し出ることができます。
これが「相続の排除」です。そして、相続を排除された人は「遺留分」も認められなくなります。
4.4 相続放棄者
相続を放棄した者は「遺留分」を使う権利もなくなります。相続を放棄すると、はじめから相続人ではなかったものとみなされてしまいます。
遺留分とは、「相続人」の生活を守る制度です。「相続人ではなくなった相続放棄者」について遺留分が認められないのは当たり前ですね。
そもそも遺産はいらいないと言って「相続の放棄」をしたのに、その相続放棄者が遺留分を主張するのは変ですよね。
5 遺留分を請求できる期限
遺留分は、いつまでも自由に使うことができるのでしょうか。それとも使用期限があるのでしょうか。「相続が起きてから20年後に遺留分を返せ」と言えるのでしょうか。
残念ながら遺留分の請求には期限があります。よく考えれば当然ですよね。
もし期限がなければ、どうなるでしょうか。その遺言書によって財産を譲り受けた人は、遺留分に相当する遺産をいつまでも使うことができず、持っていなければなりません。
それでは立場が不安定すぎて、安心して遺贈を受けることができません。そこで、遺留分に期間を設けました。
- 遺留分を侵害した遺言(または贈与)があったことを知った時から1年間
- 相続開始(死んだ日)の時から10年間
いずれかが経過すると遺留分を主張することができなくなってしまいます。
6 遺留分の放棄
遺留分は「被相続人の死亡の前後を問わず」放棄することができます。
遺留分は相続人に与えられた「権利」なので、放棄できるという結論は、あなたもしっくりくるのではないでしょうか。
しかし遺留分の放棄は、被相続人が「生きているうちにするのか」それとも「亡くなった後にするのか」で難易度が全然ちがいます。
遺留分の放棄の難易度は、次のとおりです。
- 生前 : 難しい
- 死後 : かんたん
遺留分とは相続人の生活を保障するための仕組みです。簡単に遺留分の放棄を認めてしまうと「法律(遺留分の制度)」が絵に描いた餅になりかねません。
被相続人が生きているうちに何かしらの圧力をかけられ、無理やり「遺留分の放棄」をさせられることがあるかもしれません。
そのようなことがないように、次のようなルールを作りました。
民法(遺留分の放棄)
1 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の1人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
被相続人が生きているうちに遺留分の放棄をするためには「家庭裁判所の許可」を受けなければいけません。そこで厳しいチェックを受けます。
裁判所は、相続人が遺留分を放棄するだけの明確な理由があるのかを判断し、許可を出します。裁判所は次のような点をチェックします。
- 本人の自由な意思に基づいていること
- 遺留分の放棄に、それ相応の理由があること
- 代償性(見返り)があること(遺留分の放棄の代わりにお金を渡すなど)
これからもわかるとおり、被相続人が生きている間に遺留分を放棄することは簡単ではありません。一方、被相続人が亡くなった後の「遺留分の放棄」は自由にできます。形式も特にありません。
7 まとめ
遺留分とは、相続人の生活を守るために最低限もらえることが保障された取り分のことです。
相続人なのに遺産をもらえなった方には力強い味方になってくれるでしょう。
もちろん、使うか、使わないかは自由です。
また遺言書を書く方は、この権利を頭の片隅に置きながら、よく自分と向き合いましょう。
正確な遺留分を知るためには、正確な財産調査が不可欠。こちらを詳しく知りたい方は『【初心者向け】相続財産の調査のコツ!詳しい遺産の調査方法もわかるよ!』をご参照ください。