相続で争いの火種になる「特別受益」と「寄与分」をわかりやすく解説します!
ある相続の一幕です。
お父さんが亡くなり、長男は二男に対し「その遺産2000万円を1000万円ずつ分けよう」と提案しました。
一見、平等な分け方です。でも二男は、その遺産分割案に納得できません。同じ金額をもらえるにも関わらずです。
『そんなことあるの??』
不思議なことに、これはよくある話です。
例えば、
- 「長男は、父から生前に「500万円」をもらっていた」
または
- 「二男は父の介護を10年近くしていたが、長男は遊び歩いていて介護を手伝うことは一切なかった」
これでは「同じ金額の遺産」をもらっても二男としては納得できません。
このような時に、二男の感情を調整する役割として期待されているのが「特別受益」と「寄与分」です。そして残念なことに、相続において争いの原因になるのも「特別受益」と「寄与分」です。
そこで、今回は相続における争いを回避するためにも、このふたつの制度をわかりやすくご説明したいと思います。
目次
1 特別受益とは?
特別受益とは、生前に亡くなった人から「不動産をもらったり」「お金を援助してもらったり」と相続人が利益を受けていた場合、「その利益のこと」をそう呼びます。
そして、この利益を受けていた相続人は「その利益分だけ」相続できる財産が減ることになります。
例えば、1000万円の遺産を「長男」と「二男」が法定相続分にしたがって、500万円ずつ相続することを「長男」は望んでいます。
しかし、二男はどうしても受け入れることができません。
なぜなら、「長男」は20年前に父親から家を建てるための資金として「2000万円」をもらっていたのです。
二男は、生前に何も受け取ってはいません。これでは二男も面白くないでしょう。遺産分割協議書にハンコも押すのも躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。
このような不公平を修正し、相続人間の感情を調整する仕組みが「特別受益」です。
この特別受益の仕組みを使えば、遺産1000万円を二男がひとりで相続し、相続人間の不平等を解消することができます。
詳しい計算方法は、あとで説明しますね。
2 すべての生前贈与が特別受益となるのか?
特別受益は、相続人間の不公平をなくすための制度です。
しかし、すべての贈与についてこれを認めてしまうと、相続をいたずらに複雑にしてしまいます。
そこで、「特別受益にあたる贈与」を限定することにしました。
特別受益として認められるものは、次の3つです。
- 遺贈
- 婚姻もしくは養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与
一つ一つ詳しく見ていきましょう。
2.1 遺贈(いぞう)
遺贈とは「遺言による贈与」です。
例えば、遺言書に「この不動産は長男に贈与(遺贈)する」と書いてあったとします。
これが「遺贈」です。
このような遺言書があれば、父親が長男に不動産を「遺贈」したと表現します。
2.2 婚姻または養子縁組のための贈与
わかりやすいように、「どのような贈与」がこれに当たるのか具体例を見てみましょう。
例えば、
- 生前に父親(または母親)から結婚をするにあたって「持参金」や「支度金」などのお金を受け取った。
あるいは
- 養子に入るときに「持参金」や「居住用の家」を用意してもらった。
このような行為が「婚姻や養子縁組のための贈与」です。
2.3 生計の資本としての贈与
これは、生活の基盤となるような援助(贈与)をいいます。
次のような援助が、生計の資本としての贈与です。
- 「家を新築するためのお金」や「新居の敷地になる土地」をもらった
- 事業をはじめるために資金の援助を受けた
- 留学するための学費を出してもらった
3 「相続人ではない人」が生前贈与を受けたらどうなる?
すべての贈与が「特別受益」となるわけではないことを先ほど説明しました。普段から何気なく行われている少額な贈与は、特別受益には含まれません。
例えば、父親が1万円のスクラッチくじに当たって、夕飯をおごってもらった。これは特別受益ではありません。お父さんに「ありがとう」と言って終わればいいのです。
では、「贈与を受ける人」に制限はないのでしょうか。
次のようなケースで、特別受益があったと認定されるのか考えてみたいと思います。
被相続人である父が「おい」に住宅資金として2000万円を援助した。
「おい」は父の相続人ではない。
被相続人の長男は、それを面白く思っていない。
この「おい」に対する贈与は、父の相続において特別受益として考慮するべきでしょうか。
結論から言うと、相続人ではない「おい」への資金援助は特別受益にはなりません。特別受益として認められる贈与や遺贈は「相続人に対するもの」だけです。
この特別受益は、相続人間の不公平をなくすための制度です。その根底には「相続分の前渡し」という考え方があります。
『被相続人(亡くなった方)は、特別受益者を他の相続人よりも優先したいのではなく、特別受益も含めて平等に相続してほしいと思っているはずだ』
これが、特別受益制度のはじまりです。
この考え方からもわかるとおり、相続人以外への「贈与」や「遺贈」は特別受益とはなりません。
4 特別受益の計算方法を覚えよう
特別受益を考慮して、各々の相続分(取り分)を計算してみましょう。
特別受益は「相続分の前渡し」と考えて、それも含めて「相続人みんな」で平等に分けるための仕組みでしたね。
これが頭にあると特別受益の計算方法も「かんたん」に覚えられるでしょう。
では、さっそく説明します。難しくないので、ついてきてくださいね。
4.1 特別受益を計算する2つのステップ
【STEP1】
まずは、特別受益を考慮した「本当の遺産総額」を計算します。
- 特別受益がいくらなのかを評価する
- その価格を遺産に加える
この遺産総額を「みなし相続財産」と呼びます。
そして、この特別受益を遺産全体に加えることを「特別受益の持ち戻し」といいます
【STEP2】
次に、この「みなし相続財産」をもとに各相続人の取り分を計算していきます。
4.2 具体的な特別受益の計算をしてみよう!
言葉だけだとわかりにくいので、具体例を使いながら計算してみます。
被相続人 : 父
遺産 : 2000万円
相続人 : 「長男」と「長女」のふたり
特別受益 : 長女は結婚するときに「500万円」をもらっている
(1)みなし相続財産を計算してみましょう。
2000万円 + 500万円 = 2500万円 ← これが「みなし相続財産の価格」です
(2)法定相続分に基づいた相続人ふたりの受取金額を計算します。 ※法定相続分は2分の1ですよ。
長男 : 2500万円 × 2分の1 = 1250万円
長女 : 2500万円 × 2分の1 = 1250万円
(3)長女の取り分から特別受益額を差し引きます。
長女 : 1250万円 - 500万円 = 750万円
これで終わりです。
各相続人の取り分は、
長男 : 1250万円
長女 : 750万円
です。
簡単ですね。
5 特別受益をなかったことにする「持ち戻しの免除」
特別受益の仕組みは、必ず使うものというわけではありません。例外があります。
『被相続人(亡くなった方)としては、特別受益も含めて相続人みんなが公平に分けることを望んでいるはずだ』
特別受益はこの考え方をもとにスタートしているのでしたね。
そうであれば、被相続人が「特別受益の持ち戻し」をしなくてよいと言っているのであれば、持ち戻し計算をする必要はありません。
「本人がそう言っているのですから」
この持ち戻しの免除は、特に形式が決まっていません。口頭で免除したとしても有効です。
ただ、それを立証することは相続人にとって容易ではありません。
持ち戻しの免除に形式はありませんが、後の争いを考えれば、遺言書に書いておくと安心でしょう。
6 寄与分とは?
寄与分も特別受益と同じように、「相続人の間の不公平をなくす」ための制度です。
被相続人の財産を「増加させたり」「減少を食い止めたり」した相続人がいれば、その分については、他の相続人に「優先」して受け取ることができるようにしよう。
これが寄与分の制度です。
例えば、二男はプライベートの時間も犠牲にして、父の経営する果樹園を朝から晩まで手伝っていました。
一方、長男は実家のある青森を飛び出し、東京に行き、自由気ままに遊びほうけています。
その後、父が亡くなり遺産を「長男」と「二男」で半分ずつ相続しました。
この遺産分割をどう思いますか。もしあなたが、二男だったら納得できますか。
二男の立場に立てば、喜んで受け入れられる遺産分割の内容ではないでしょう。このような不公平を解消するための制度が「寄与分」です。
7 寄与分がみとめられるケース
寄与分で問題(争い)になるのが、その行為が寄与分として認められるかどうかです。
例えば、介護をしていた相続人は「それを寄与に当たる」と言うでしょうし、介護をしていなかった他の相続人は、「それは寄与には当たらない」と主張するでしょう。
まずは寄与分の条文(ルール)を見てみましょう。
民法
共同相続人中に被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。2 以下省略
このルールからもわかるとおり、寄与分といえるためには「特別の寄与」が必要です。「ふつう」の寄与で足りません。
- 特別のサポート(寄与)があったのか
- 「親子」や「兄弟」に求められる扶養の範囲のサポート(寄与)だったのか
この2点が問題になります。
この点について具体的に「これをすれば寄与分として認められる」「これでは寄与分とは認められない」といった明確な規定はありません。
その行為が寄与分として認められるのかどうかは、個別に判断していくことになります。
ただ、いきなり個別に判断するといわれても困ってしまいますよね。
そこで、あなたが寄与分を考える際の助けになるように、代表的な寄与分のパターンを紹介します。
【家業を手伝っていた】
上記のように、被相続人(亡くなった方)が経営していた家業を手伝っていたケースです。
家業における売り上げは、良くも悪くも被相続人の財産に大きな影響を与えます。
ほかの相続人が見向きもしなかった家業を手伝って、売り上げ増加に貢献した相続人がいれば、その人が多くもらうべきでしょう。
ただし、家業を手伝うことにより、それ相当の給料をもらっていた場合は認められません。
手伝いをした相続人に、それに見合ったお金を支払っていれば、被相続人の財産は増えていないので、よく考えれば当たり前ですね。
【金銭その他の財産を援助していた】
相続人が、被相続人(亡くなった方)に対して「お金」や「その他の財産」を給付していたケースです。
例えば、
- 家業の運営が苦しい時に、長男が父に運転資金を援助した。
- 段差がある家では生活するのが難しくなった母のために、二男がバリアフリーに対応した家を買ってあげた。
などです。
【献身的な介護をしていた】
被相続人(亡くなった方)の介護をしていたケースです。
寄与分で一番問題になりやすいケースではないでしょうか。
介護をしていれば、すべての場面で寄与分が認められるわけではありません。
「ふだんは仕事をしながら、時間が空いた時だけ介護を手伝っていた」
この程度では、寄与分として認められません。
亡くなった人の財産の「増加」または「減少を食い止めた」と同視できるだけの介護である必要があります。
「仕事も辞め」「プライベートも犠牲にして」介護に専念していたケースでは寄与分が認められるでしょう。
【日常全般にわたる援助をしていた】
相続人が「被相続人の生活全般にわたってサポート」をしていたケースです。
これまで紹介した要素を複合的に取り入れているパターンです。
例えば、
- 母親の収入が国民年金だけで、それだけでは赤字になってしまう。息子が、毎月一定額を援助していた。
さらに、
- 介護と同じように、食事の用意や買い物、掃除、洗濯といった生活すべてについて、サポートしていた。
このようなケースで「親子」や「兄弟」に求められる「扶養の範囲を超えたサポート」をしていた場合、寄与分が認められます。
【財産を代わりに管理していた】
相続人が、被相続人に代わって財産の管理(保全・保守・処分など)をしていたケースです。
例えば、
- 父親がアパートを所有し、息子が家賃の「請求」や「回収」をしていた。さらに、ふだんのアパートの「掃除」や「不具合のでた個所の補修」などのメンテナンスを代わりに担(にな)っていた。
または、
- 父親の持っている不動産を売るにあたり「買主を探したり」「価格交渉をしたり」と父に代わって娘が行った。
このようなケースで被相続人の「財産の増加に貢献したり」「財産が減少することを抑えられたり」したケースが考えられます。
8 寄与分の計算方法を覚えよう!
各相続人の取り分を計算してみましょう。
【STEP1】
寄与分を考慮した「本当の遺産総額」を出します。
- 寄与分を金額にすると、いくらなのかを話し合う
- 遺産総額からその価格を差し引く
寄与分を差し引いた遺産総額を「みなし相続財産」といいます。
【STEP2】
このみなし相続財産をもとに各相続人の取り分を計算し、最後に「特別寄与者の取り分」に寄与分を加えます。
言葉だけではわかりにくいと思うので、具体的な例で計算してみましょう。
被相続人 : 父
遺産 : 2000万円
相続人 : 「長男」と「長女」のふたり
寄与分 : 600万円(長女が長年にわたって療養介護をしていた)
(1)みなし相続財産を計算します。
2000万円 - 600万円 = 1400万円 ← これが「みなし相続財産」です
(2)相続人ふたりの取り分を計算します。 ※法定相続分は各2分の1ですよ。
長男 : 1400万円 × 2分の1 = 700万円
長女 : 1400万円 × 2分の1 = 700万円
(3)長女の取り分に寄与分を加えます。
長女 : 700万円 + 600万円 = 1300万円
これで終わりです。
相続人の取り分は、
長男 : 700万円
長女 : 1300万円
です。
どうですか。
難しくないですよね。
9 遺留分と寄与分の関係
遺留分は、「寄与分も含めて取り戻せるのか」という問題があります。
結論としては「寄与分」は遺留分の対象にはできません。
「寄与分として認められた財産(価格)」は、相続財産というよりも「寄与した人のもの」と考えるのが自然です。
これが、寄与分の「そもそもの考え方」です。
遺留分とは、どういうものでしたか。遺留分とは、最低でも相続できる「遺産」を定めたものです。
「遺産」です。
遺留分は、「遺産ではないもの」を取り戻すことはできません。
『寄与分として認められたものは遺産ではなくなる。遺産ではないから遺留分として取り戻せない』
このように考えるとスッキリするのではないでしょうか。
10 遺言書で寄与分を定めることはできるのか?
相続人たちで争いになることを望んでいる人はいません。争いを避けるために「何かいい方法はないか」と考える人もいるでしょう。
その中には「遺言書で寄与分を定めておけばいいのではないか」と考える人もいるかもしれません。
このように遺言書で寄与分を定めることはできるのでしょうか。
残念ながら、遺言書で寄与分を定めることはできません。なぜなら、寄与分とは「一定の事実があって」それに基づいて当然に相続分の修正が行われるからです。
もしも、特定の相続人に多くの遺産を相続してほしいなら、別の方法を考えましょう。
寄与分そのものは指定できませんが、遺産の具体的な分け方は、被相続人が自由に決めることができます。
多くの遺産を渡したい相続人がいれば、遺言書に「その相続人が多く遺産を相続できる」ように書けばいいだけです。
寄与分だけを定めた遺言書に意味はありません。したがって、遺言書によって寄与分を指定することはできないのです。
11 まとめ
「相続人」や「被相続人」の生前の行動によっては、法定相続分どおりに分けてしまうと、かえって不平等になるケースもあります。
その不平等を解消するために「特別受益」や「寄与分」の制度があります。
しかし残念なことに、これらの制度が原因で争いになってしまうケースがあるのも事実です。
ここに書いてある「特別受益」と「寄与分」の仕組みを正しく理解し、現実的でない要求は控えましょう。相手の立場に立つことを忘れないでください。